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北朝鮮 危機の深層
核とミサイルで世界を脅かす
金正日政権
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本当の脅威は核弾頭の小型化
6カ国協議で見落とされる北朝鮮核開発問題の焦点
金正日(キム・ジョンイル)総書記の健康状態を推測し続ける各国政府にとって、大きな疑問としてのしかかっているのが、「親愛なる指導者」が核問題に関する決定を下すことができる状態にあるのかどうか、ということ。
そんななか、この1年半の核交渉の「進展」で見落とされてきた問題が頭をもたげつつある──北朝鮮の軍事力増強だ。先週、長距離弾道ミサイル「テポドン2号」の射程を伸ばしうる新たな発射施設が北西部の東倉里で建設されていることが明らかになった。
この事実が公になる前にも、北朝鮮は核合意に逆行する措置を取り続けていた。8月末には、寧辺にある核施設の「無力化」作業の中断を発表。以後、複数の報道によると、寧辺の復旧に向けた作業が本格化しているらしい。
北朝鮮はアメリカがテロ支援国家指定を解除しないのを理由に、無力化作業の中断を正当化。一方、アメリカは、テロ指定解除の前に北が核放棄に向けた「国際的基準に合致する検証」に同意しなければならないと主張している。
明らかに話がかみ合っていない。もちろん、北朝鮮の期限破りや言いがかりは何も今に始まったことではない。だが一方で、このすれ違いが生じたそもそもの原因の一つに、米政府の核交渉担当者クリストファー・ヒル国務次官補のいいかげんな交渉がありそうだ。
現在の核交渉に詳しいある元米国務省当局者によると、ヒルは過去9カ月における交渉の間、厳格かつ具体的な検証計画を詰めるよう北朝鮮に強く迫ったことが一度もなかったらしい。そのため、北朝鮮は「国際的基準に合致する検証」という文言を「事後に追加された不当な要求」と主張。実際、6カ国協議の合意文書には「国際的基準」という表現はない。つまり、ヒルは北朝鮮に「そんなことに同意した覚えはない」と言い訳する余地を与えてしまったのだ。
水かけ論が続くなか、北朝鮮がすでに事実上の核保有国である現実に変わりはない。そして寧辺の復旧問題が注目される一方で、ある重要な問題が見落とされている──北朝鮮が実戦配備可能な弾道ミサイルに核弾頭を搭載するのをどう防ぐか、だ。
北朝鮮はすでに核兵器7〜8個分に相当する量のプルトニウムを保有している。そのため、寧辺はもはや核計画にとって欠かせない存在ではない。また、日本などの周辺国を射程内に入れた弾道ミサイルがあるのも周知の事実。唯一欠けているのが、弾道ミサイルに核弾頭を搭載する能力だ。
最大の謎はノドン+核弾頭
米情報当局は、北朝鮮にその能力はまだないとみている。元CIA(米中央情報局)朝鮮半島分析官のブルース・クリングナーは、北朝鮮が大型のテポドンに核弾頭を搭載できる可能性はあるとみるが、このミサイルは実戦配備されていない。また、短距離のスカッドミサイルに取りつけるほどの小型化技術はまずないと言う。
最大の謎は、日本全土を射程内に入れた中距離ミサイル「ノドン」に搭載できるほど核弾頭の小型化が進んでいるかどうかだと、クリングナーは指摘する。
北朝鮮がその能力を保有するのも時間の問題かもしれない。「北朝鮮が核弾頭の小型化を全力で急いでいることはまちがいない」と、元米国務省北朝鮮分析官のケネス・キノネスは言う。「1年ほどの間に核交渉で成果がなければ、核と弾道ミサイルを融合する技術の保有を宣言する可能性もある」
さらに問題なのが、誰も北朝鮮を止めようと行動していないことだ。現在の6カ国協議での議論は北朝鮮の既存の核を廃棄することに集中しており、弾道ミサイル問題や核弾頭小型化の阻止は話し合われていない。しかもブッシュ政権はこの8年間、弾道ミサイル問題を放置してきており、日本のミサイル交渉も頓挫したままだ。
北朝鮮軍部に核と弾道ミサイルの融合を止めさせる権力がある唯一の人物──それは、現在病床にいるとされる金正日だけだ。その金が今後、そうした決断を下せるほどの状態にあるかどうかは、誰にもわからない。
[2008年9月24日号掲載]