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北朝鮮は核兵器をあきらめない
核施設撤去で誠意を見せたはずの独裁国家だが、国家存続のカギである核兵器をやめるつもりはない
アーサー・ブラウンは25年間、東アジア専門家としてCIA(米中央情報局)で働いた。だが存在しないイラクの大量破壊兵器に対するブッシュ政権の方針に不満をいだき、05年にCIAを退職した。
9月末、東京で会見を開いたブラウンは、北朝鮮が寧辺の核再処理施設の封印を解いたことについてこう言い放った。「北朝鮮に核兵器を放棄する意思はない」。北朝鮮に核開発を断念させる目的の6カ国協議について、彼は「ごまかし、見せかけだ」と断じた。
長く北朝鮮との対話に反対してきたブッシュ政権でさえも、昨年からなんらかの合意を得るために躍起になってきた。なぜ無意味なことで時間を無駄にしたのか。
ほかの専門家たちも、ブラウンの懐疑論に同意している。「親愛なる指導者」金正日(キム・ジョンイル)総書記が政権の座に就いてからの14年間で、唯一といっていい成果は核兵器をもったことだった。国民が飢餓に苦しみ、経済はしぼむ一方で、北朝鮮は核開発計画に多額のカネと資源を費やしてきた。この計画のせいで、国際社会は金正日をまともに相手にしなくてはいけない。
核施設は地下にある?
金が核兵器を放棄すれば、ただの貧しい独立国に逆戻りするだけ。悪いことに、世界でも最も精力的な経済国に囲まれている。核兵器の保有は敵の威嚇だけではなく、体制存続のカギになっている。
今年6月、北朝鮮は寧辺の核再処理施設を無能力化して本気度を示した。原子炉から燃料棒を抜き取り、アメリカを含む国際的な査察団を受け入れ、プルトニウム計画に関する1万8000ページに及ぶ書類を提出し、冷却塔を生中継で破壊した。確かに、彼らの誠意は証明されたはずだった。
ブラウンはこの点にも触れた。彼は、北朝鮮の核計画でわれわれが知るのは寧辺の核再処理施設だけだと指摘する。この施設は地上にあり、人工衛星から完全に見える。1950年代の朝鮮戦争でアメリカの執拗な空爆に苦しめられた北朝鮮で、多くの軍事関連基地は地下深くにある。なぜこの施設はよく見える場所にあるのか。
プルトニウム生産炉は周囲に放射性物質を発するが、米軍の偵察機は定期的に北朝鮮の大気のサンプルを採っている。寧辺の核再処理施設は、北朝鮮にとって、安心した「潜在的犠牲者」から燃料油や食糧、外交的な承認などをせしめるための「捨て駒」にすぎない。
さらに、北朝鮮は核兵器に用いられる別の核分裂性物質を開発しているかもしれない。北朝鮮が公式に認めていない別の計画によって作り出される高濃縮ウランだ(02年秋、北朝鮮高官が米高官にウラン濃縮について豪語したことがあるといわれている)。
ブラウンが言うように、南アフリカやリビアのように過去に秘密裏に核兵器を開発しようとした国は、遠心分離装置を地下に隠しウラン濃縮に全力を尽くした。北朝鮮はウラン濃縮技術をパキスタンのアブドル・カディル・カーン博士から核の闇市場で入手したと指摘されている。
6者協議の本当の目的
これが事実なら、プルトニウム生産炉を放棄した後でも、北朝鮮は簡単に核兵器を量産できることになる。今年の6カ国協議でアメリカ側は、北朝鮮からウラン計画についての詳細を引き出すためにかなりの時間を割いた。
金の健康問題が北朝鮮の核交渉での態度をさらに硬化させた、という推測の真偽は誰も知るすべがない。だが現在の強硬策が金重病説が浮上する以前からも続いてきたことは留意するべき点だろう。
なぜ6カ国協議を続けるのか。関係各国が体面を保つのに都合がいいからかもしれない。協議が続くかぎり、各国政府は、北朝鮮が核保有国だと認めるという不快な選択をしなくていい。皆が参加することで少なくとも問題に取り組む努力をしていると主張できる。
冷笑する人もいるだろう。だが核兵器がもたらす妥協など、常にその程度のものでしかない。
[2008年10月15日号掲載]