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笑う北朝鮮、空回りする日米
テポドン2号の発射でますます強気の北朝鮮、核を放棄させるのはほぼ不可能か
祝賀ムード 平壌で開かれた集会で「人工衛星」打ち上げ成功を祝う北朝鮮の市民(4月8日) KCNA-Reuters
「(大統領に就任して)半年もたたないうちに、バラク・オバマが世界から試される日が来るだろう」──08年のアメリカ大統領選の選挙戦中に、当時まだ副大統領候補だったジョー・バイデンはコンビを組む大統領候補のオバマについてこのように指摘していた。早晩何らかの国際危機が起きて「この男の気概が問われる」ことになると、バイデンは言った。
実際には、世界は半年も待ってくれなかった。オバマの「気概が問われる」事態をつくり出したのは、ほかならぬ北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記だ。北朝鮮は4月5日、長距離弾道ミサイル「テポドン2号」を日本列島の方向に発射した。
これを受けて日本、アメリカ、韓国は、国連安保理決議(北朝鮮の弾道ミサイル開発を禁止している)に違反する行為だと非難。オバマ大統領は訪問先のプラハで演説し「北朝鮮はルールを破った」「違反行為は罰しなければならない」と言い切った。
しかし北朝鮮をどのように「罰する」べきかという点で、国連安全保障理事会の話し合いは難航した。1つだけ確かなのは、これまでのところ北朝鮮のペースで事態が進んでいるということ。北朝鮮は日米韓の「敵視政策」を理由に自国の挑発的な行動を正当化している。大方の専門家や外交筋の見通しによれば、今後も弾道ミサイル問題と核問題の話し合いによる解決を遠のかせる行動を取り続ける可能性が高そうだ。
北朝鮮問題がバイデン副大統領の言うような危機に発展するかはまだ分からないが、日本は既に全面的な危機が勃発しているかのように振る舞っている。5日に弾道ミサイルが発射されて間もなく、新聞各紙は号外を発行。テレビ局は通行人に街頭インタビューを行い、北朝鮮の脅威に対する国民の「恐怖」の声を報じようとした。
日本が犯した初歩的ミス
弾道ミサイル発射前後の4月3~5日に読売新聞が実施した世論調査では、北朝鮮のミサイル発射に対して「日本政府は制裁を強めるべきだ」と答えた人が78%に達した。北朝鮮の核開発と拉致問題に対して日本国民がかねてより強い怒りを感じてきたことを考えれば、予想どおりの反応だ。
皮肉なのは、慌てふためいた日本政府の対応が北朝鮮を利してしまった可能性があることだ。日本政府は弾道ミサイル発射の1週間ほど前に、万一の事態に備えて東北と首都圏に地上配備型迎撃ミサイル(PAC3)を大っぴらに配備してしまった。通行人がカメラでそれを撮影できたほど、最新鋭の兵器が公にさらされた。
日本政府には、迎撃ミサイルの配備パターンが重要な安全保障上の機密事項だという意識が不足していたのかもしれない。実際、ミサイル発射の数日前、北朝鮮の航空部隊が日本海のイージス艦を哨戒していたという情報もあり、日本のミサイル防衛システム網を盗み見ようとしていた可能性がある。北朝鮮が320発の中距離弾道ミサイル「ノドン」を発射装置に載せていることを考えればなおのこと、日本にとってあってはならない「アマチュア的で初歩的」なミスだと、ある元米外交官は指摘する(匿名を希望)。
日本政府は米政府と共に北朝鮮に厳しい対応を取るべきだと国連安保理で主張したが、北朝鮮の古くからの友人である中国とロシアが慎重な姿勢を取っていて話し合いは難航した。結局、12日時点で日本は安保理決議の採択を断念し、拘束力のない議長声明で妥協する見通しとなった。
ただ、日本やアメリカの政府がどんなに息巻いたところで、北朝鮮が弾道ミサイル・核開発を放棄する可能性は日に日に低くなっている。軍部が外務省を通じて声明を発表する場面が増えていることから、北朝鮮の指導部内では、比較的穏健な外務省の影響力が弱まり、代わって強硬派の軍部の発言力が増しているようだ。
その証拠に北朝鮮は3月末、弾道ミサイルの発射(あくまでも人工衛星だと北朝鮮は主張)に対して国連が何らかの非難声明を採択すれば、「朝鮮半島の非核化に向けて進捗してきたプロセスが元の状態に戻り、必要な強力な措置を取ることになる」と息巻いた。要するに、弾道ミサイルへの搭載を目指して核弾頭の小型化に取り組み続け、「無能力化」されている寧辺の核施設を復旧させるということだ。
ニューヨークの国連本部に派遣されている北朝鮮の外交団はもはや「まともな交渉ができないと諦め始めている」と、北朝鮮代表団と接点のある元米外交官は言う。「北朝鮮の体制内で軍部が主導権を握ったと判断する以外にない」
ただし、強硬派が主導権を手にしたからといって北朝鮮が交渉の席に戻る可能性が消滅したわけではない。核弾頭を搭載した弾道ミサイルの開発に近づき、これまでより強い立場で交渉に臨めるようになったことで、むしろ外交交渉に前向きになる可能性がある。
「核戦力の面でアメリカと対等な関係になり、ワシントンと平壌をたたき合えるようなものを持った上で米朝関係を正常化し、不可侵条約を結ぼうというのが北朝鮮の構想だ」と、防衛省防衛研究所の武貞秀士主任研究官は指摘する。
北朝鮮は決して折れない
一方の米政府は、北朝鮮との話し合いに応じる以外に選択肢がない。交渉が再開されれば北朝鮮にアメを差し出す用意があると、米政府の北朝鮮政策を統括するスティーブン・ボズワース特別代表は言う。「圧力をかけるばかりが最も効果的なアプローチではない。圧力だけでなく、協調を引き出すための措置を組み合わせなければいけない......そのためにできることがアメリカにはあると思う」
それでも、交渉は一筋縄ではいかないだろう。弾道ミサイル開発が一段と進んだことを背景に、北朝鮮は交渉のテーブルで要求内容をつり上げてくる公算が高い。「クリントン政権やブッシュ政権の頃とは比較にならないくらい大きな要求を北朝鮮は突き付けてくるだろう」と、元米国務省北朝鮮分析官のケネス・キノネスは言う。
北朝鮮がアメリカに対して望んでいるのは、和平条約を交わして朝鮮戦争(1950~53年)を正式に終結させ、米朝間の政治・経済関係を正常化することに加え、アメリカが日韓との軍事同盟を破棄し、両国に提供している「核の傘」を撤廃することだ。こうした要求は米政府にとって「論外」だと、北朝鮮との交渉を担当した経験を持つエバンス・リビア元米国務次官補代理は言う。
この状況を受けて米政府内では北朝鮮が核を放棄する可能性に懐疑的な見方が広がり始めていると、オバマ政権のアジア政策チームに近い北朝鮮問題専門家は言う(匿名を条件に取材に応じた)。
アメリカに対する一連の要求事項が受け入れられない限り、「北朝鮮が核開発の野望を捨てるなどと期待するのは現実的でない」と指摘するのは、上院外交委員会上級スタッフ(東アジア担当)のフランク・ジャヌージだ。「そんなことは決してあり得ない」
オバマにとっては実に厳しい見通しだ。北朝鮮に核と弾道ミサイルを手放させようと思えば、オバマに相当な「気概」が必要だということは間違いない。
[2009年4月22日号掲載]