コラム

イスラエルへの「ダブルスタンダード」に、今こそ国際社会が向き合うべき理由

2024年09月26日(木)11時45分
ネタニヤフ政権の方針に抗議するドイツのデモ

ネタニヤフ政権の方針に抗議するデモ(今年4月、ベルリン) JONAS GEHRINGーDDPーREUTERS

<各国はなぜイスラエルをそこまで擁護するのか? 歴史を振り返ると「甘い姿勢」ばかりではなかった...>

イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの終わりの見えない攻撃は、国際社会が今後イスラエルとどう向き合っていくのかという、大きな問いを突き付けている。

2023年10月7日のハマスによる大規模なテロ攻撃で、イスラエル史上、最長の戦争が始まった。欧米各国はすぐさまイスラエルへの全面的な支持を表明。アメリカのバイデン大統領や欧州各国首脳が相次いで緊急訪問し、連帯を示した。

しかし、ガザへの苛烈な攻撃が続くと、その論調はすぐに変化。ワシントン・ポスト紙が「西側諸国のウクライナでの道徳主義を損なう」と、ロシアに対する厳しい姿勢とイスラエルに対する姿勢の違いを批判するなど、内外から「ダブルスタンダード」との批判を呼ぶことになった。


人権や人道主義という理念を掲げる欧米各国がなぜイスラエルをそこまで擁護するのか。

背景には、歴史的なユダヤ人迫害やホロコーストに端を発する罪の意識に加え、必ずしも全ユダヤ系人口の意見を反映しているとは言えないが、政治的影響力を持つユダヤ系・非ユダヤ系団体によるアメリカの「イスラエル・ロビー」の存在がある。AIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題委員会)はその最たる例だ。

しかし、歴史を振り返れば、アメリカがイスラエルに厳しい姿勢を示したこともある。共和党は今でこそロビー団体の影響を受け、イスラエル支持一辺倒となっているが、かつてはユダヤ人入植地の建設を凍結させるため、貸付保証の停止という制裁をちらつかせて圧力をかけたこともある。

ホロコーストという負の歴史を持つドイツでは近年、いかなるイスラエル批判も許されない風潮が強化されている。08年、国内での議論なしにメルケル首相がイスラエルの国会で行った演説で、イスラエルの安全保障を「国是」としたことから流れが変わった。

イスラエル出身のホロコースト研究者で米ブラウン大学のオメル・バルトフ教授は「イスラエル側からの働きかけもあり、一切批判できなくなった」と指摘。ユダヤ系研究者の反対にもかかわらず、19年にはイスラエルに対するボイコット活動を反ユダヤ主義と見なす決議がドイツ連邦議会で採択された。

ただ、各国政府の姿勢は世論をそのまま反映しているわけではない。論議を呼んでいる国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状請求をめぐっては、イギリスで54%、フランスで49%、ドイツでも44%が、イスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状が発行されるべきと回答。「発行されるべきではない」は各国とも20%前後だった。

イスラエル観の違いは特に若い世代で顕著だ。

プロフィール

曽我太一

ジャーナリスト。東京外国語大学大学院修了後、NHK入局。札幌放送局などを経て、報道局国際部で移民・難民政策、欧州情勢などを担当し、2020年からエルサレム支局長として和平問題やテック業界を取材。ロシア・ウクライナ戦争では現地入りした。2023年末よりフリーランスに。中東を拠点に取材活動を行なっている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を

ワールド

米関税措置、WTO協定との整合性に懸念=外務省幹部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story