コラム

「驕る習近平は久しからず」中国コワモテ外交の末路

2020年10月01日(木)17時37分

コワモテを続けた習近平の外交に孤立化で限界が(2019年10月)Tingshu Wang-REUTERS

<日本に対して傲慢かつ高慢な態度だった中国外交が菅新政権誕生後に一変した。なぜか>

2020年(令和2年)9月16日、菅義偉氏が日本首相に選出されたその当日、隣の大国の中国は早速、間髪入れずの対菅新政権の外交アプローチを始めた。

菅首相が国会で指名を受けたのは日本時間の午後2時前であったが、その2時間後の北京時間午後3時過ぎ、中国外務省の報道官は定例の記者会見で祝意を表しつつ、中国指導者から祝電のあることを予告した。そしてその日の夕方、習近平国家主席が菅首相の就任に祝電を送ったニュースが中国中央電視台(CCTV)によって流された。

外国首脳の就任に対して、中国政府がこれほど迅速に反応したのは珍しいケースである。そして外務省報道官による「祝電の予告」からCCTVの「祝電報道」までの流れを見ていると、どうやら中国政府は、習主席の祝電が各国首脳の中での「一番乗り」となることを意識して段取りし、実際に一番乗りとなったようだ。

驚くほどの対応の迅速さと丁重さもさることながら、実は、中国の国家主席が日本の首相就任に祝電を送ること自体、滅多にない異例なことだ。

中国側は平素から、日本首相のカウンターパートが中国の首相(国務院総理)であるとの認識を持ち、自国の国家主席を日本の首相よりも格上の国家元首だと位置付けている。したがって、これまで日本の首相就任に対し祝電を送ってくるのはいつも中国の首相であった。

例えば2006年9月に安倍晋三氏が初めて首相に就任した時、中国から祝電を送ってきたのは当時の温家宝首相である。2011年8月に野田佳彦氏が首相に選出された時、祝電を送ってきたのも依然として温首相だ。

このような経緯からすれば、菅新首相の就任に対し、習主席が自ら祝電を迅速に送ってきたことはまさに「事件」と呼ぶに値する出来事である。おそらく中国側からすれば、「破格の礼遇」であろう。もちろんそれと引き換えに、中国側は菅首相からの「破格な応対」を期待していたはずである。

しかし、菅首相が就任直後から行った一連の首脳電話会談は、中国と習主席にとってむしろ失望の連続であった。

菅首相の最初の電話会談の相手となったのは、同盟国アメリカのトランプ大統領である。さすがの中国もこれには異論はないだろう。しかし中国にとって意外だったことに、菅首相の2番目の電話会談の相手になったのは習主席ではなく、中国と対立している最中のオーストラリアのモリソン首相だった。しかもそれ以後、菅首相は大国・中国の存在と習主席のメンツをあたかも無視するかのように、ジョンソン英首相、メルケル独首相、ミシェルEU大統領との電話会談を次から次へとこなしていった。

習主席との電話会談の話がやっとニュースに出たのは22日。日本の各メデイアは政府関係者からの情報として、菅首相・習主席の電話会談が25日夜に予定されていると一斉に報じた。しかし菅首相は24日、習主席との会談に先立った形で韓国の文在寅大統領と電話会談を行い、そして25日夕、習主席との電話会談の直前に菅首相はよりによって、中国と国境紛争をしている最中のインドのモディ首相との電話会談に臨んだのである。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story