コラム

「トランプ・エイリアン」に食い破られる共和党の悲鳴

2022年12月03日(土)17時36分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

©2022 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<米中間選挙で共和党が大勝を逃した「戦犯」となったトランプ前大統領。それなのに、来年の大統領選に立候補を表明。保守層に距離を取られてもなお『エイリアン』のごとく身内を食い破る>

新大統領就任後の最初の中間選挙では与党が議席数を大幅に減らす。これがアメリカ政界の鉄則だ。この100年での例外は、対テロ戦争中だったブッシュ政権と大恐慌中だったルーズベルト政権の時だけで、今回が3回目だ。それも大恐慌や戦争と並ぶ、国家的な危機に直面しているからだった。その名もドナルド・トランプ。彼から国を守ろうと、有権者は民主党に票を入れたもようだ。

今回の選挙の114の激戦区のうち、トランプが支援した候補は事前予測された得票率を5ポイント下回った一方、非トランプ系の共和党候補は2.2ポイント上回った。つまりトランプの支持が共和党の足を引っ張っている。激戦区ではなく最初から圧倒的に有利な「勝馬」に乗ったときは勝てているが、接戦で勝てるかもしれなかった「馬」でもトランプが乗った瞬間、ことごとく失速しているのだ。まあ、ジョッキー体形ではないし。

そんな破壊王のトランプが中間選挙の1週間後に2024年大統領選挙への立候補を宣言した。共和党にとってはかなりのショックで、一部の政治家や保守系メディアはトランプの判断を厳しく批判している。党内で反トランプの風が、前回出馬を宣言した2015年以来、最も強く吹いているようだ。

全国民や一般の共和党支持者に立候補の賛否を問う世論調査は行われていないが、トランプの成人した子供たちで立候補に賛成しているのは25%だけのようだ。なぜなら、4人いるなか、出馬宣言の会場に顔を出したのは次男のエリックだけだ。

有権者は「トランプ・チルドレン」を、トランプのチルドレンはトランプ候補を否定しているようだ。でもトランプは空気を読まない。ライバルとなり得る共和党の有力候補を既に攻撃している。党にとっては、ホラーに満ちたシナリオだ。

風刺画ではそんな状況を、映画『エイリアン』を彷彿させるえぐいシーンで描いている。しかし、同作とは事情が違う。あの映画では人間が異生物に襲われて仕込まれた幼体からモンスターが生まれた。こちらは陰謀説を受け入れ、性的少数者や移民などへの恐怖や怒りをあおり、メディアと政府を敵視する近年の共和党が自ら生んだもの。日本語で言う身から出たさびだ。 

あっ、さび......! やっとトランプの顔色の謎が解けた!

ポイント

WHO'S READY FOR 2024?!
2024年の準備はいいか?!

ゾウ
共和党の象徴として頻繁にメデイアに登場する。19世紀の
風刺画家トーマス・ナストが民主党を象徴させたロバと共に頻繁に
自作に描き、定着したとされる。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story