コラム

「ワイルドなことになるぞ!」公然と敵対心をあおる、「最低責任者」トランプの罪

2022年09月06日(火)13時51分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
トランプ

©2022 ROGERSーANDREWS McMEEL SYNDICATION

<民主主義的な手続きを踏み倒し、移民やマイノリティに敵対心をあおる、トランプ前大統領。安倍元首相暗殺、サルマン・ラシュディ襲撃と何ら変わらない卑劣な言動をなぜ放置するのか?>

最近の旧統一教会たたきには少し違和感を覚える。問題のある教団だが、安倍元首相の暗殺を呼び掛けたわけでない彼らに責任を負わせるのは不条理では?

一方、最近襲撃された英作家サルマン・ラシュディの場合。最高指導者ホメイニ師が過去にラシュディを殺害した者に300万ドルの賞金を支払うファトワ(宗教令)を出したという意味では、イランの責任を追及するのは道理だろう。全く違和感がない。むしろ「親和感」だ。

ドナルド・トランプ氏の場合はどうだろう? 賞金もファトワも出さないが、彼の繰り出すレトリックが複数の事件を誘発したと、風刺画はほのめかしている。

先月FBIに家宅捜索されたトランプは「不当な捜査だ!」と主張した。その直後、武装した支持者がFBIの支局に侵入を試み、「清掃員も含めてFBI関係者は全員殺されることになる」などの脅迫もネット上に書き込まれた。銃を持った支持者による抗議デモもFBI支局の前で行われた。

トランプは責任を認めないけど、きっと犯人たちに「トランプ捜査への恨みが動機?」と聞いたら「そうさ!」と言うだろう。

また、大統領選で不正があったと騒ぎ続けるトランプは、選挙結果の承認が行われた昨年1月6日に「ワイルドなことになるぞ!」と全国の支持者をワシントンの抗議デモに集結させ、演台上から「みんなで議事堂に行くぞ!」とあおった。

参加者の中に武器を持っている人がいると知りながらも警備体制を緩めようとし、連邦議会議事堂への乱入が始まってから3時間以上止めようとしなかった。が、乱入の責任もトランプは認めない。まあ、妥当な選挙結果も認めないから、トランプが認めないことはむしろ正当性の証しかもしれない。

ほかにも、移民やマイノリティー、ユダヤ教徒などに対する敵対心を普段からあおるトランプに、責任があると思われる事件の例を風刺画は挙げている。テキサス州エルパソやペンシルベニア州ピッツバーグ、フロリダ州パークランドの乱射事件、バージニア州シャーロッツビルの白人至上主義デモなど。

トランプは前大統領でCEO、つまり「最高責任者」でありながら、自分のレトリックの効果を顧みない。最低責任者だね。

ポイント

OUR FATWA HAD NOTHING TO DO WITH THE ATTACK ON SALMAN RUSHDIE.
われわれのファトワとラシュディへの襲撃は何の関係もない。

MY RHETORIC HAD NOTHING TO DO WITH ATTACKS AT THE FBI, THE CAPITOL, EL PASO, PITTSBURGH, PARKLAND, CHARLOTTESVILLE...
私のレトリックは以下への攻撃と何の関係もない。FBI、連邦議会議事堂、エルパソ、ピッツバーグ、パークランド、シャーロッツビル......。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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