コラム

民主党の脅威を執拗に訴えるトランプ界隈とファシストの共通点(パックン)

2020年09月11日(金)18時00分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Making America Fascist / (c)2020 ROGERS-COUNTERPOINT.COM

<8月の共和党大会で「民主党政権下の暮らしは暗くて恐ろしいものになる」と執拗に煽ったが、その証拠に挙がった暴動、暴力、放火は全部いま起きていること>

民主党大統領候補のジョー・バイデンが大統領になったら Life under the Democrats would be dark and scary(民主党政権下の暮らしは暗くて恐ろしいものになる)!!これが8月に開かれた共和党全国大会のメインテーマだった。でも不思議とその証拠として挙げられているのは、いまトランプ政権下で起こっている暴動、暴力、放火など。沈んでいくタイタニック号の船長が「船長を交代したら氷山にぶつかるぞ!」と警告するくらい論理が崩壊しているけど、そういう主張だ。

党大会では、自宅の前を行進する反人種差別デモ参加者に銃を向けたことで逮捕、起訴された夫婦がビデオ出演し、バイデンが当選したら「極左民主党のアメリカで、あなたとあなたの家族は安全ではいられない」と予言した。今が安全だというならば、この夫婦はなんで銃を振り回す必要があったのか、気になるけど。

マイク・ペンス副大統領も「バイデンのアメリカでは、あなたは危険にさらされる」と主張。一方、トランプが再選すれば「人種、信仰、肌の色を問わず、全てのアメリカ人のために、この国の街に法律と秩序をもたらす」と、断言した。でも、それができるなら、もったいぶらないでこの4年間でやってほしかったね。

トランプ本人はバイデンを「アメリカの偉大さを崩壊させる人」と評した。Make America Great Again というスローガンどおりに、「アメリカを再び偉大に」することができたトランプだから、確かに崩壊は許せないのだろう。とはいえペンスが演説で掲げた新しいスローガンはこうだ。「Make America Great Again Again」。新たな「再び」を加えることで、どこかで偉大さを失ったことを認めちゃった?

一番驚愕したのはトランプの長男の恋人でタレントのキンバリー・ギルフォイルの演説。民主党の脅威をこう描いた。「彼らはあなたの自由、あなたの権利を奪いたがっている。あなたの生き方を支配するために、あなたの思考、あなたの信仰を支配したいのだ」

この、全体主義の独裁国かのようなビジョンにおののく。しかし、この風刺画が指摘するように、現役大統領こそがその典型に近い。トランプは政敵の逮捕を要求する。「北朝鮮そっくりの」軍事パレードを希望する。超法規的な権限を主張する。最近では、自治体の反対を押し切り、重装備した連邦職員をデモの取り締まりに派遣した。デモ参加者をペイントボール銃やペッパースプレーで攻撃した右翼の武装集団や、自動小銃でデモ参加者2人を射殺したトランプ支持者を擁護する......などなど、ファシズムの要素が多い。

この国家の沈没は氷山のせいではない気がする。

<本誌2020年9月15日号掲載>

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プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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