コラム

正義と公正が叫ばれる時代に、バー司法長官が倒したい「正義の女神」像(パックン)

2020年07月10日(金)18時40分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Joining the Crowd / ©2020 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<白人警官による黒人男性殺害事件への抗議が発展し、奴隷制維持のために戦った将軍らの銅像が撤去される中、司法長官はというと...>

黒人男性ジョージ・フロイド殺害事件後の抗議が続くなか、アメリカ各地で公共の場にある銅像がデモ隊によって引き倒されたり、または管轄機関によって正式に撤去されたりしている。奴隷制維持のために戦った南軍のリー将軍や、新世界における奴隷貿易や先住民大虐殺のきっかけをつくったコロンブスの像が代表的な例だ。

国民全員にとっての正義や公平な社会を求める声が高まり、それに反する思想や行動を象徴する人物をアイコン(像、崇拝対象の偶像)として飾ってはいけない時代だ。中には何を間違ったか、奴隷制度の廃止論者で北軍のために戦って戦没した英雄の像もデモ隊に倒されたけど。忠実な犬を求めるデモ隊が、ハチ公の像を倒すような皮肉だ。

でも、それよりも皮肉なのは風刺画が描写している事態。正義と公正さが最も求められているなか、まさにその象徴である「正義の女神像」をウィリアム・バー司法長官が引き下ろそうとしている。

彼は何をやったのか? ドナルド・トランプ大統領による司法妨害などの違法行為を指摘するロバート・ムラー特別検察官(当時)の報告書の内容を曲げ、「トランプ無罪」の解釈を国民に伝えた。トランプ側近が有罪となった裁判に介入し、結果的に求刑を引き下げた。別のトランプ側近が罪状を認めた裁判にも介入し、訴追自体を取り下げようとした。また別のトランプ側近が実刑を食らった事件に絡むトランプ企業、トランプ一族、トランプ本人への捜査をやめるよう検察に圧力をかけた。さらに、これらとは違う複数の件を捜査中のニューヨーク州の連邦検事を解任した。どの件も前代未聞の権力乱用と批判された。

上記の件は超簡略化して書いたけど、ウィリアム・バー、ロジャー・ストーン、マイケル・フリン、ニューヨーク州南部地区連邦地検などのキーワードで検索するとすぐ見つかるはず。ただ、正義感の強い人なら体調を崩す恐れがあるので、事前に吐き気止めを飲んだりしてからの閲覧がおすすめ!

正義の女神は金、権力、地位などに惑わされないように目隠しをし、証拠や証言を量るためのてんびんと、判決を執行するための剣を持っている。確かに、バー長官はそんなアイコンを好まなさそう。彼は両目で相手をしっかり見分け、自分の味方を守り、政敵に権威の剣を振り下ろす「政治の女神」を崇拝しているようだ。

【ポイント】
AS LONG AS WE'RE TOPPLING ICONS WE DON'T LIKE...
どうせみんなが嫌いな像を倒しているなら、ついでに......

<本誌2020年7月14日号掲載>

【関連記事】酔ってもいない司法長官に、なぜかトランプは美しく見えている(パックン)

【話題の記事】
NASCAR開幕戦「デイトナ500」をトランプ大統領が自ら先導
米シアトルで抗議デモ隊が「自治区」設立を宣言──軍の治安出動はあるか
巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
自殺かリンチか、差別に怒るアメリカで木に吊るされた黒人の遺体発見が相次ぐ

20200714issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月14日号(7月7日発売)は「香港の挽歌」特集。もう誰も共産党を止められないのか――。国家安全法制で香港は終わり? 中国の次の狙いと民主化を待つ運命は。PLUS 民主化デモ、ある過激派の告白。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4

ビジネス

ECB、12月にも利下げ余地 段階的な緩和必要=キ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story