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パックンの風刺画コラム Superpower Satire (USA)
感染広がる反ワクチン運動から子供を守れ(パックン)
Measles Crisis Underway / (c) 2019 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION
<はしかのワクチン接種が自閉症を引き起こす、という陰謀説から広がった反ワクチン運動ではしかの患者数が急増する事態に>
化学、教育、公共保健制度。3つのコラボレーションが大成功をなした!
僕の親が若かった頃、アメリカで麻疹(はしか)の感染は毎年数百万人に上り、約500人が死亡していた。だが、1963年に予防接種が始まり、2000年に「はしかの撲滅」が宣言された。めでたしめでたし!
残念ながら、物語はそこで終わらない。はしかがなくなる傍ら、同時期に新しい感染がはやり始めた。それは「MMR(はしか、おたふくかぜ、風疹の3種混合)ワクチンが自閉症を引き起こす可能性がある」という陰謀説。1998年にイギリスの医師アンドルー・ウェイクフィールドが12人の子供を症例に、そんな報告を医学誌ランセットに掲載した。これが「誤報の感染」のきっかけとなった。自閉症を恐れ、予防接種を子供に受けさせない親が増え、イギリスではしかの患者数も急増。1998年の56人が10年後には1370人になっていた。
もちろん「病原」となった研究に対して、医療業界は反撃した! 100以上もの研究結果と大勢のデータをもって、予防接種と自閉症との関係性を完全否定。さらに、ウェイクフィールドがワクチンメーカーを訴えていた弁護士から大金をもらっていたことや、自ら開発したワクチンの商売を目指していたという利益相反が判明した。当然、ランセットは記事を撤回し、ウェイクフィールドは医師免許を剝奪された。めでたしめでたし!
いや、ここでも終わらない。汚名が付いたウェイクフィールドはテキサス州に引っ越し、反予防接種運動をアメリカでも起こした。なぜか弁護士のロバート・ケネディJr.、俳優のロバート・デ・ニーロなどの有名人もその運動に加担した。ドナルド・トランプ大統領も「健康な子供が予防接種を受けて、体調を崩し......自閉症に」などと、20回以上もツイートして陰謀説を広めた。結局アメリカの親もだまされ、予防接種率が下がったことで予想どおりの結果が起きた。20年前に撲滅したはずのはしかに今年は830人以上が感染している。ばかばかしいばかばかしい!
風刺画で子供が望んでいるような「僕を間違った育児から守ってくれるワクチン(a vaccine to protect me from lousy parenting)」はまだできていないけど、一つだけ喜ばしい展開がある。トランプは先日の記者会見で「予防接種は大事だ。受けないと!」と、スタンスをひっくり返した。でも心配だ。正しいことを言っている大統領なんて、熱でもあるんじゃない?
<本誌2019年5月24日号掲載>
※5月28日号(5月21日発売)は「ニュースを読み解く哲学超入門」特集。フーコー×監視社会、アーレント×SNS、ヘーゲル×米中対立、J.S.ミル×移民――。AIもビッグデータも解答不能な難問を、あの哲学者ならこう考える。内田樹、萱野稔人、仲正昌樹、清水真木といった気鋭の専門家が執筆。『武器になる哲学』著者、山口周によるブックガイド「ビジネスに効く新『知の古典』」も収録した。
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