コラム

銃規制をできるニュージーランドと、できないアメリカ(パックン)

2019年04月05日(金)18時50分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

A Tale of Two Countries / (c) 2019 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<銃乱射事件の6日後に銃規制法を変えたNZと、銃乱射が日常化しても何も変わらないアメリカでは、何が違う?>

銃乱射事件の後の対応は国によって変わる。3月15日にニュージーランドのモスク(イスラム礼拝所)で乱射事件が起き、50人が射殺された。同国史上最悪の乱射事件だった。ジャシンダ・アーダーン首相はすぐにテレビ演説で「ニュージーランドにとって最も暗い日」と語り、翌日には現地に駆け付けて「銃規制法は変わる!」と強く断言した。そして、6日後に......法律が変わった。

アメリカ史上最悪の銃乱射事件が起きたのは2017年10月1日。ラスベガスの野外コンサート会場にいた59人が狙撃銃で殺された。数日後に現地を訪れたドナルド・トランプ大統領は記者に「銃規制は?」と聞かれ、「その話はしない」と、こちらも断言した。それから1年半がたち......ほぼ何も変わっていない。

両国では何が違う? まずは乱射事件の数。3月以前で、ニュージーランドで5人以上が殺された乱射事件が最後に起きたのは1997年。アメリカで5人以上が殺された乱射事件が最後に起きたのは今年2月。その前は1月。ラスベガス以来、13回も起きている。銃乱射が日常化している。

銃に対する意識も違う。銃保持の権利が憲法に定められているアメリカと違って、ニュージーランドでは銃を持つのはいつでも取り消されかねない「特権」だという。銃の数自体は少なくはない。100人当たり22丁だ。しかしアメリカでは112丁と、人よりも銃が多い! ニュージーランドで人より多いのは羊。

もう1つ大きく違うのはNRA(National Rifle Association=全米ライフル協会)の存在。実はニュージーランドにもNRAはある。こちらは長距離射撃の競技団体で、政治活動はしない。米NRAは政治活動がほぼ中心で、ある政治資金調査サイトによると政治献金に86万ドル、ロビー活動に500万ドル、選挙関連費用に940万ドルもかけている。この金の力をもって銃規制強化を常に阻止しようとするが、その成功率も100発100中に近い。共和党(GOP)の政治家がNRAの金に目がくらんでいる限り、アメリカの「最も暗い日」はこの先もたくさんありそう。

ちなみにニュージーランドのNRAは風評被害を避けるため、名称変更も考えているという。僕の改名案は「ニュージーランド・ライフル協会(NZRA)」。ロゴにZを足すだけで済むしね。

【ポイント】
PROFILES IN COURAGE...

勇気ある人々......

ASSAULT WEAPONS BAN!
攻撃用武器の禁止

I CAN'T IGNORE NEW ZEALAND'S DARKEST DAY...
ニュージーランドの最も暗い日を無視できない

IT'S DARK IN HERE TOO!
ここも暗いよ!

<本誌2019年04月09日号掲載>

20190409cover_200b.jpg

※4月9日号(4月2日発売)は「日本人が知らない 品格の英語」特集。グロービッシュも「3語で伝わる」も現場では役に立たない。言語学研究に基づいた本当に通じる英語の学習法とは? ロッシェル・カップ(経営コンサルタント)「日本人がよく使うお粗末な表現」、マーク・ピーターセン(ロングセラー『日本人の英語』著者、明治大学名誉教授)「日本人の英語が上手くならない理由」も収録。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の書簡、近くイランに到着=外相

ビジネス

英、決済規制当局を廃止 金融監督機構改革で企業の負

ワールド

ロシア「米からの報告待つ」、ウクライナ停戦案にコメ

ビジネス

ユーロ圏インフレ、貿易・防衛ショックで増幅リスク=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 3
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「腸の不調」の原因とは?
  • 4
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 5
    スイスで「駅弁」が完売! 欧州で日常になった日本食、…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 8
    トランプ=マスク独裁は許さない── 米政界左派の重鎮…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    企業も働き手も幸せに...「期待以上のマッチング」を…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 4
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 5
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story