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パックンの風刺画コラム Superpower Satire (USA)
トランプが戦没者墓地を訪問しなかった理由(パックン)
The Reason Trump Skipped It / (c) 2018 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION
<トランプは人種、性別、民族、宗教、性的指向、ジェンダー、身体的な特徴など国民の「違い」を強調して、分断を深刻化させている>
11月10日、フランスで第1次大戦終結100周年の行事に参加したドナルド・トランプ米大統領は恒例の米戦没者墓地への訪問を取りやめた。理由は「雨が降っていたため」。なるほど。核の傘があっても、雨には利かないからね。帰国後の「復員軍人の日」にも恒例のアーリントン国立墓地(Arlington National Cemetery)訪問をしなかった。今度は「電話しなきゃいけなかったため」。なるほど。私用スマートフォンでの会話が中国に盗聴されていると報じられたから、電話を取り上げられたかな......。
と、僕は納得していたが、風刺画家は違う理由を推測。墓地に眠っている戦没者はほとんど big Hillary supporters(熱狂的なヒラリー支援者)だと読んだトランプは、skip it(飛ばしちゃおう)と訪問の見送りを決めている。死んだ人が誰を支持したって関係ないと、突っ込まれそうなところだが、共和党は選挙不正の1つとして「死者が投票している」とよく騒ぐ。トランプも大統領選挙の直後にそう主張し、「大規模な捜査をする」と公言した。もちろん、そんな実態もないし、捜査もしない。
皮肉にも、逆のことは起きている。10月に、ネバダの州議会議員選挙に共和党から立候補した売春宿のオーナーが残念ながら亡くなってしまった。にもかかわらず......3週間後の中間選挙で当選した! つまり、死んだ人が投票することはないが、生きている共和党員が死んだ人に投票したのは間違いない。
間違いなのは、風刺画で描かれているトランプの姿勢だ。連邦大統領なのに(トランプは「POTUS45=第45代大統領」)自分を支持しない人の味方をしない、黒人や女性をけなす、性転換を認めない、アメリカで生まれた外国人の子供の米国籍を否定するなどなど、人種、性別、民族、宗教、性的指向、ジェンダー、身体的な特徴といった国民が持つ「違い」をもって一部の人を敵視し、国の分裂を深刻化させる言動を繰り返している。
同時に、一部の国民だけを守り続ける。それは自分の base(政治基盤)。歴代大統領は偏った表現を避け、「みんなの代表」のイメージを重視したが、トランプは一部の人に有利な政策を取っている上、「The Trump base is far bigger & stronger(トランプの政治基盤はより強大になった)」とツイートしたりして、「一部主義」の意識を垣間見せる。
忘れられても、侮辱されても、戦没者はおそらく気にしない。でも、トランプは気を付けるべきだ。同じ扱いをされたら、生きている国民は気にする。そして投票をする。
<本誌2018年12月06日号掲載>
※12月11日号(12月4日発売)は「移民の歌」特集。日本はさらなる外国人労働者を受け入れるべきか? 受け入れ拡大をめぐって国会が紛糾するなか、日本の移民事情について取材を続け発信してきた望月優大氏がルポを寄稿。永住者、失踪者、労働者――今ここに確かに存在する「移民」たちのリアルを追った。