コラム

新型コロナのパンデミックから5年、中国人はなぜ李文亮を懐かしむのか

2025年02月10日(月)11時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

中国人は自分自身のために泣いている

李は、メディアに「疫情吹哨人」(新型コロナの警鐘を鳴らした人)と描かれたが、本当の彼は必ずしも英雄ではなく、14億人の中にいる、ごく普通の中国人にすぎなかった。誠実さと良心はあっても公権力と戦う勇気はなく、警察から訓戒された時、抵抗せずに「罪」を認める署名をした。李はまるで現代中国人の鏡のような存在だ。

パンデミックから5年が経過した現在も、李を懲戒した組織の誰も責任を問われていない。それだけではなく、「患者第1号」は誰か、ウイルスが発生した本当の原因は何か、依然として謎のままだ。李の死を悼んで泣いているように見える中国人は、実際には自身の不幸や社会の不公平、個人としての無力感、そして勇気を失った自分自身のために泣いているのだ。


ポイント

SARS
中国名は非典型肺炎。コロナウイルスが原因で2002年11月に中国南部の広東省から発生。ベトナムや香港、カナダ、アメリカなどに広がった。全世界で8098人が感染、774人が死亡。

李文亮
1985年遼寧省生まれ。90年代に父母が共にリストラされ極貧生活を送ったが、成績優秀で武漢大学臨床医学部に合格。死去後の2020年3月、中国政府が感染抑制に模範的な役割を果たしたと表彰した。

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プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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