コラム

パンダを政治利用してきた中国政府と比べて、単純すぎる日本人...かわいさも「パンダ並み」

2023年03月06日(月)12時30分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
パンダ

©2023 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<「プロパガンダ」という言葉にも「パンダ」が隠れているのにね>

大熊猫(ジャイアントパンダ)の香香(シャンシャン)の中国への返還をめぐる日本人の大騒ぎは、中国でも話題になった。

【動画】中国にいたパンダに石を投げる愚か者

6年前に上野動物園で生まれたシャンシャンの両親は2011年に中国から借り受けたパンダなので、協定に基づいて2頭の間に生まれたシャンシャンも中国側に返還されなければならない。日本人のパンダファンは別れがつらくて泣き、行列を作って空港まで見送った。その記事は中国にも伝わり、日本人のパンダ愛とその情熱がネットで話題になった。「日本政府は嫌いだけど、その国の人々のパンダ愛は本物だ、感動した!」という投稿もあった。

日本人のパンダ愛は本物かもしれないが、「国宝」のパンダは長年、中国政府によって「熊猫外交」の道具として活用されてきた。共産党政権の中華人民共和国は1970〜80年代、国民党政権の中華民国・台湾と断交し、自らと国交を結んだ西側7カ国にパンダを贈った。言うまでもなく、これは台湾にはできない。その7カ国にはもちろん日本も含まれている。

その後も中国は仲良くしたい国にパンダを送り込んできた。一方で、仲が悪くなるとパンダの返却を求める。通信機器大手・華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の孟晩舟(モン・ワンチョウ)副会長兼CFO(最高財務責任者)の拘束で中国ともめたカナダに今、パンダは1頭もいない。

黒か白か、対極の二色しかないパンダは、中国人の二元思考法を象徴する存在だ。そういう意味で、パンダは正真正銘、中国の国宝である。パンダを政治利用してきた中国政府と比べて、日本人は単純すぎる。日本人がパンダ好きな理由はズバリ好奇心だろう。珍しいものは何時間行列しても自分の目で確かめたい、という好奇心で日本人に並ぶ国民はそういない。3000日以上も上野動物園へパンダ撮影に通う日本人もいるそうだ。

パンダは事実上、中国政府の外交の道具として使われているのに、日本人はその政治的な意図を一向に気にせず、パンダそのものに情熱を注いで「かわいい」と感動して好きになる。この点では、日本人のかわいさもパンダ並みだ。「プロパガンダ」という言葉にも「パンダ」が隠れているのにね。

ポイント

大熊猫
中国南西部の四川省、陝西省、甘粛省に生息。体長120〜180センチ、体重70〜125キロ。野生ではタケの幹、葉、タケノコのほか昆虫やネズミも食べる。野生の個体は1800頭以上。

熊猫外交
アメリカ(1972年)、日本(72年)、フランス(73年)、イギリス(74年)、メキシコ(75年)、スペイン(78年)、西ドイツ(80年)に雌雄1頭ずつ寄贈。90年代以降は長期レンタル形式になった。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

原油先物続伸、ウクライナ紛争激化で需給逼迫を意識

ビジネス

午前の日経平均は反発、ハイテク株に買い戻し 一時4

ワールド

米下院に政府効率化小委設置、共和党強硬派グリーン氏

ワールド

スターリンク補助金復活、可能性乏しい=FCC次期委
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story