コラム

特権社会・中国ではポルノを見るのも一部の特権

2020年10月17日(土)13時10分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

©2020 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<ポルノも海外SNSも禁止。それを破れば罰金や逮捕、収監される可能性も──。ただし、それは普通の中国人だけの話>

先日、駐英中国大使である劉暁明(リウ・シアオミン)のツイッター公式アカウントがポルノ投稿に「いいね」したことが発見され、大騒ぎになった。目ざといツイッターユーザーは素早くスクリーンショットして中国のネットへ転載。駐英中国大使館はすぐ「これは反中国勢力の悪質な攻撃だ!」とツイッターで非難。タブロイド紙の環球時報も「ネット上の各位、デマを信じるな! 拡散するな!」と呼び掛けたが、中国人ネットユーザーの間では「劉大使は外国勢力の性的誘惑に我慢できず思わず『いいね』をしたが、責任は全て外国側だ!」という皮肉な投稿が広がった。

少し前にも、中国外務省の報道官である趙立堅(チャオ・リーチエン)が日本の元セクシー女優・蒼井そらをツイッターでフォローしていることを発見された。蒼井そらは中国で超有名人だ。

中国では正しい性教育が不十分で、ひそかに観賞する海賊版ポルノで「勉強」する人も少なくない。社会主義国家だから、性的な作品は資本主義的腐敗として一切禁止されている。毛沢東時代はもちろん、現在の習近平(シー・チンピン)時代も毛時代に負けないほど取り締まりは厳しい。数年前には、映画やテレビでセクシーな衣装を着た女性の首から下の映像を全てカットした。

政府はポルノも海外SNSも禁止しているから、もし誰かが「壁越え」して海外のポルノサイトにアクセスすれば、罰金や逮捕、収監される可能性がある。ただし、厳しい取り締まりは普通の中国人にしか適用されない。官製メディアの記者や外務省の官僚・スポークスパーソンは自由に海外SNSを使う特権を持つ。ポルノ投稿に興味を示しても、「後ろ盾」さえあれば特に問題とされない。

しかし、法律ではなく後ろ盾の強さで全てが決まる中国で、後ろ盾を失ったらおしまい。汚職官僚は特権を失い、起訴・収監された際には、巨額な賄賂を受け取っていたとか、愛人が何人いたとかというニュースがさらされる。「愛人100人以上!」という汚職官僚もいた。

特権社会の中国では、性愛もポルノも特権を象徴する「勲章」なのだ。

【ポイント】
劉暁明 1956年広東省生まれ。74年外務省入り。2009年から駐英大使。2014年、安倍晋三首相(当時)の靖国神社参拝を、ハリー・ポッターの悪役の魔法使いを引き合いに出して批判。

趙立堅 1972年河北省生まれ。96年外務省入り。2019年から外務省副報道局長。高圧的な姿勢ゆえ、ヒットしたアクション映画にちなんで「戦狼外交官」と呼ばれる。

<2020年10月20日号掲載>

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド総選挙、2回目の投票始まる 与党優位揺るがず

ワールド

米中関係の「マイナス要因」なお蓄積と中国外相、米国

ビジネス

デンソーの今期営業益予想87%増、政策保有株は全株

ワールド

トランプ氏、大学生のガザ攻撃反対は「とてつもないヘ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story