コラム

新型コロナウイルス感染爆発で露呈した中国政府の病い

2020年02月04日(火)18時40分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

China's Other Disease / ©2020 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<報道もなく、何も知らされていなかった武漢市民は安心して春節準備を進めていた。罪があるとすれば、それは市民ではなく......>

湖北省武漢市で発生した新型肺炎の感染者数は、中国国内外を合わせて1万人を大幅に超えた。死者は250人以上。湖北省全域がほぼ閉鎖状態となっている。

大混乱だが、1月初旬まで中国は全く何事もなさそうだった。なぜ一気に感染者が急増して、制御不能な状態に陥ったのか。ネットで公開された記事を整理して振り返ってみよう。

医学雑誌ランセットの論文によると、1番目の感染者が出たのは昨年12月1日。同月31日、59人の感染者確認という情報がネットに流出したが、翌日の元日には「武漢ウイルス性肺炎を捏造」という罪で医者を含む8人が警察に検挙された。

1月3日、武漢市衛生健康委員会は公式サイトで感染者44人、重症11人と発表。5日に感染者59人、重症7人と再び発表したが、地元メディアは全く報道しなかった。10日になってやっと「原因不明の肺炎は新型冠状(コロナ)ウイルス」という記事が1本だけ出たが、11日、新華社は「1月3日以降、新たな症例は見つかっておらず、ヒトからヒトへの感染も確認されていない」という記事を配信した。

このため、何も知らない武漢市民は安心して春節(旧正月)の準備を進めていた。18日、毎年の恒例行事として、約4万人が料理を持ち寄って春節を祝う「万家宴」が市内で開かれた。

検閲の一方で感染者数はどんどん増える。これ以上隠せないと判断したのか、20日になって中国の各メディアは一斉に大きく報道し始めた。そして23日午前2時過ぎ、いきなり「午前10時から武漢全域を閉鎖」という緊急命令が出た。市内の病院は超満員で、医者も医療設備も深刻に不足。恐怖のあまり逃げてきた武漢市民が、中国各地で追い払われている。 

罪があるのは武漢市民なのか。閉鎖の直前、のんびり春節コンサートを鑑賞していた湖北省の指導者たちは罪を問われなければならないが、この感染症が制御不能なほど拡散したのは、中央政府が国民の知る権利を無視したからではないか。

今回の新型肺炎は17年前の「非典」(SARS、重症急性呼吸器症候群)より深刻化する恐れがあると専門家は指摘した。混乱を見る限り、中国政府の「病い」も深刻だ。

【ポイント】
万家宴
春節前夜に一家でごちそうを食べる風習が、武漢市のあるコミュニティーで地域住民が料理を持ち寄る大イベントに。2011年には3万人が参加しギネスブックに世界記録と認められた。

非典
中国語でSARSは「非典型肺炎」あるいは「非典(フェイディエン)」。2002年11月に広東省で発生。中国のほか32の国と地域に広がり、8096人が感染、774人が死亡した。

<本誌2020年2月11日号掲載>

20200211issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月11日号(2月4日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」特集。歌人・タレント/そば職人/DJ/デザイナー/鉄道マニア......。日本のカルチャーに惚れ込んだ韓国人たちの知られざる物語から、日本と韓国を見つめ直す。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story