コラム

中国の「精神的日本人」は軍事オタクにあらず(李小牧)

2018年04月03日(火)15時30分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/李小牧(作家・歌舞伎町案内人)

(c) 2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<王毅外相が激怒した「精神的日本人(精日)」の若者たちが本当に表現したかったのは、中国政府に対する不満>

「中国人的敗類(中国人のくず)!」

かつて駐日大使も務めた中国の王毅(ワン・イー)外相が3月上旬、記者に向かって吐き捨てた。念のため言うが、「中国人のくず!」は私ではない(笑)。

普段は冷静な彼が怒りを爆発させた相手は、「精神的日本人(精日)」と呼ばれる中国人だ。「精日」が一気に注目を集めたのは18年2月。中国人の20代の若者2人が旧日本軍の軍服を着て、南京市内の日中戦争の遺跡の前で記念撮影した写真がネットにアップされ、大騒ぎになったのだ。

「精日」とは、「精神的に自分たちを日本人と同一視する人々」のこと。中国人や台湾人には以前から、日本のファッションや文化に憧れる「哈日(ハーリー)」と呼ばれる人たちがいた。決定的な違いは、「精日」が日本を崇拝すると同時に祖国や同胞を徹底的に敵視、軽蔑する姿勢にある。

「精日」は中国を軽蔑しているから、中国人が最も嫌がることをする。日本軍のコスプレだけでなく、メッセンジャーアプリのテンセントQQには、堂々と「天皇に忠誠を誓う」「大東亜共栄」と掲げるグループがあった。

そもそもこういった若者は、中国の愛国主義教育に首までつかって育った世代のはずだ。彼らが日本軍の軍服まで着て抗議の意思を示すのは、それだけ今の祖国に不満があるから。行き過ぎた貧富の格差やとどまるところを知らない役人の汚職に対する怒りが、ねじれて「天皇」「大東亜共栄」への賛美に向かっているのだ。「精日」は、形を変えた反政府運動と言っていい。

王毅がもし「精日」を一部の軍事オタク現象だと思っているなら、大きな間違いだ。彼らは氷山の一角にすぎない。嘘だと思うなら、日本に旅行した中国人に聞いてみるといい。彼らは口をそろえて、日本の清潔さや日本人の礼儀正しさ、ルールを守る態度を礼賛する。日本に来てようやく祖国の欠点に気付いた彼らも、「精日」にほかならない。

今年で来日30年になる私ももちろん「精日」だ。「くず!」と罵るだけでは問題は深刻化するだけだと、先日さらにエラくなった王外相に進言しておく。

【ポイント】
王毅

中国の外相。文化大革命後に北京の大学で日本語を学び、04〜07年に駐日大使。18年3月、外相兼任で副首相級の国務委員に昇格

テンセントQQ
中国の大手IT企業テンセント(騰訊)が無償提供するインスタントメッセンジャーアプリ。SNS機能もある

本誌2018年4月10日号掲載

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