コラム

「平均的であること」は楽しい

2015年10月07日(水)14時07分

普通こそマジョリティー 平均的ということは、右翼でも左翼でもない普通の良識的な人たち、ということだ FXQuadro-Sutterstock

 少し古い記事になるが、米国の新興メディア「クォーツ」に、ファンドマネージャーのブルック・アレンさんという人が「平均的であるということ」という素敵な文章を書いていた。スーパースターの大金持ちになるのではなく、かといって下の方に転落するのでもなく、この世界でどうやって平均的でそこそこ幸せな人生を生きていけばいいのか?というテーマだ。

 いちばん大切なことは、平均的であることをハッピーに考えようという心持ちだ、とアレンさんは書いている。大成功しなければと、強迫的に思わない方がいいということ。

 そもそも21世紀の先進国の平均的な生活を送ることができているということ自体が、歴史的に見れば実に幸せなことだという自覚は必要だ。私たちは清潔で居心地の良い家に住み、毎日ふんだんに食べるものがあるのが当たり前だと思っているが、この生活は200年前の宮廷よりも実はレベルが高いということを忘れてはならない。昔は冷蔵庫もコンビニも電子レンジも洗濯機もなかった。

 それなのに「成功しなければ」という強迫観念に私たちは突き動かされている。ウェブを見れば、書店を歩けば、「こうすればあなたは変わる」「成功するためには」といった自己啓発のコンテンツがあふれている。そういうものについていけないと自分を卑下することは、私たちの人生を惨めにしてしまうだけだし、そういう考え方はやめたほうがいいよ、とアレンさんは書いている。

 アメリカでも日本でも、自己啓発本にはこんなメッセージがあふれかえっている。「あなたの人生が改善されないのは、自分の責任だ。もっとポジティブになって自分を高めなければならない」

平均的なことの結果が平和である


 しかし私たちはたいていの場合、平均的でしかない。財産も人並み、ユーモアも人並み、マネジメント能力も人並み、文章力も人並み、仕事を見つける能力も人並み。しかしそれの何が悪いのだろう?

「人並み」というのは、両極端ではない中間領域にいる平均的な私たち、という意味でもある。右翼でも左翼でもない、普通の良識的な人たち。両側にいる「極端主義者」は互いのことを敵視して戦っているが、でも中央にいる60~80%ぐらいの平均的な人たちは、敵に勝利することよりも、平和のような平均的な結果を求めているのだ。

プロフィール

佐々木俊尚

フリージャーナリスト。1961年兵庫県生まれ、毎日新聞社で事件記者を務めた後、月刊アスキー編集部を経てフリーに。ITと社会の相互作用と変容をテーマに執筆・講演活動を展開。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『当事者の時代』(光文社新書)、『21世紀の自由論』(NHK出版新書)など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story