コラム

「平均的であること」は楽しい

2015年10月07日(水)14時07分

 世界からランダムに2つの国を抜き出してその関係を調べれば、友好的という結果になることが多い。なぜならそういう2つの国は互いのことを特に気にしてないから。敵対している国が、憎悪から脱却して互いを愛するようになるのはたいへんむずかしい。いったんこじれた関係はなかなかもとには戻らない。愛憎はつねに表裏一体なのだ。だからアレンさんの訴えるのは、スローガンは「戦争より愛を」ではなく、「戦争より無関心を」であるべきだということ。

攻撃的になるよりは気楽なのがよい


「正義の反対は悪ではなく、また別の正義なのだ」という有名な言い回しがある。正義を声高に叫べば叫ぶほど、その正義に反対する「別の正義の人たち」が台頭してくるから、衝突は激しくなるばかりで、決して問題は解決しない。正義を叫んでも、平和は絶対にやってこないのだ。だから平均的な人たちは正義を叫ぶのではなく、正義を叫んでる人たちに相対せず、正義に関与しない。そのかわりに、皆で穏やかに現実的な落としどころについて話し合えばいい。

 正義の人はそんな時でも駆け寄ってきて、「オマエラはこの緊急時にそんな悠長なことをしていていいのか!立ち上がれ!」と叫ぶかもしれない。でもまあ、議論の車座を解く必要は無い。静かにスルーすれば良いのだ。

 アレンさんは、こんなジョークを紹介している。「世界平和とハムサンドイッチ。どっちを取るべきか?」。答は「ハムサンドイッチ」。なぜなら世界平和より良いものは「ない」。そしてハムサンドイッチは食べ物が「ない」よりいいから。なるほどね。

 私たちは生活も能力も、そして思想も「平均的」に生きていくのが気楽で良い。自己啓発本を読んで「このままじゃダメだ!もっと自分を高めなければ」と焦るのではなく、社会正義に目ざめて「正義が実現されていない!」と義憤に駆られて他者を攻撃するのでもなく、自分が平均であることをを認識し、他の人たちと同じようであることを感じ、そこでゆるいつながりを実現していけばいいのではないかと思う。

プロフィール

佐々木俊尚

フリージャーナリスト。1961年兵庫県生まれ、毎日新聞社で事件記者を務めた後、月刊アスキー編集部を経てフリーに。ITと社会の相互作用と変容をテーマに執筆・講演活動を展開。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『当事者の時代』(光文社新書)、『21世紀の自由論』(NHK出版新書)など多数。

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