コラム

自分を「侮辱」し続けたバンスを、なぜトランプは副大統領候補に? 大統領選でマイナスになる要素も

2024年07月24日(水)17時35分
トランプ前大統領とバンス副大統領候補

党大会で副大統領候補に指名されたバンス(写真右、7月18日) BRIAN SNYDER–REUTERS

<トランプが共和党の副大統領候補に、39歳の新人上院議員J.D.バンスを選んだ背景には、いかにもトランプらしい2つの「決め手」があった>

オハイオ州の新人上院議員J・D・バンス(39)は、アメリカ史上最も若い副大統領の1人として歴史に残る政治的大転換を成し遂げるかもしれない。

トランプ前大統領から共和党の副大統領候補に指名されたバンスは、かつて筋金入りの反トランプだった。2016年と17年には「アメリカのヒトラー」ではないかと声を大にして叫び、「道徳的災難」と呼んだこともある。16年の大統領選ではトランプに反対票を投じた。

だがトランプの信任を得たことで、バンスは11月の大統領選の結果次第でアメリカのナンバー2、さらには次の大統領になる可能性も出てきた。


オハイオ州ミドルタウン生まれのバンスは、高校卒業後に米海兵隊に入隊。地元のオハイオ州立大学を最高の成績で卒業し、エール大学法科大学院を修了した人物だ。出生時は別の姓だったが、育ててくれた母方の祖父母の姓を名乗ることにした(母親は5回結婚)。

妻はインド系アメリカ人で、子供は3人いる。ベストセラーとなった著書『ヒルビリー・エレジー』の印税に加え、金融の世界でも成功して富を築き、38歳で故郷オハイオ州の上院議員に当選。19年にはカトリックに改宗している。

2年連続で全米第1位に輝いた『ヒルビリー・エレジー』の宣伝でバンスはトランプへの軽蔑を隠さず、文章やインタビューで激しく攻撃したが、そのトランプからの推薦が決め手となって上院選で勝利。それからわずか2年で副大統領候補に選ばれるための足場を築いた。

バンスは権力のために信念を捨てた?

バンスはトランプに対する過去の発言について「誤りだったと後悔している」と弁明したが、ブーメランとなって返ってくる可能性もある。白人労働者階級を「搾取」する「詐欺師」とトランプを評したバンスは、権力のために信念を捨てたように見える。かつての「師匠」の1人(ブッシュ元大統領のスピーチライター)は不道徳な日和見主義者と非難。元政治的ヒーローの元インディアナ州知事は、バンスの転向を「残念だ」と評した。

トランプのバンス抜擢の裏には、家族の強力な支持があった。16年の大統領選当時は長女イバンカと夫ジャレッドが大きな影響力を持っていたが、今ははるかに右寄りでポピュリスト的な長男と次男が、最も強力な家庭内のアドバイザーになっている。

バンスは中西部の工業地帯で支持拡大に貢献するはずだ。ミシガン、ウィスコンシン両州で勝てば当選はほぼ確実だろう。39歳のバンスを相棒に選ぶことには、高齢のバイデンとの対比を強調する効果もある。(編集部注:バイデンは7月21日に選挙戦からの撤退を表明した)

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン大統領、米と直接交渉可能と示唆 ミサイル計画

ビジネス

ECB当局者、追加利下げに論拠 伝達方法巡り見解割

ワールド

ロシア軍、150万人規模へ 大統領令で18万人増強

ワールド

ロシア「火遊びの結果」、トランプ氏銃撃容疑者がウク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優雅でドラマチックな瞬間に注目
  • 2
    ウィリアムとヘンリーの間に「信頼はない」...近い将来の「和解は考えられない」と伝記作家が断言
  • 3
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライナ軍MANPADSの餌食になる瞬間の映像を公開
  • 4
    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…
  • 5
    エリザベス女王とフィリップ殿下の銅像が完成...「誰…
  • 6
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 7
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 8
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 9
    バルト三国で、急速に強まるロシアの「侵攻」への警…
  • 10
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 4
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 5
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 6
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 7
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 8
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 9
    キャサリン妃、化学療法終了も「まだ完全復帰はない…
  • 10
    33店舗が閉店、100店舗を割るヨーカドーの真相...い…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 6
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 7
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 8
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story