コラム

アメリカ社会は「大谷翔平騒動」をどう見ている? 有名コメンテーターでさえ「大谷も有罪」だと信じている理由

2024年04月03日(水)16時50分
新チームでの開幕戦を前に、ロサンゼルスのリトルトーキョーにあるホテルの側面に描かれた大谷の巨大壁画 MIKE BLAKEーREUTERS

新チームでの開幕戦を前に、ロサンゼルスのリトルトーキョーにあるホテルの側面に描かれた大谷の巨大壁画 MIKE BLAKEーREUTERS

<水原・元通訳の違法賭博と窃盗をめぐり広がる臆測、大谷は賭博大国アメリカに新たな気付きを与えよ>

表面上は単純な話である。フィールドでは神様のような力を発揮して100年に1人の逸材と評される男も、フィールド外では私たちと同じ普通の人間だった。それだけのことだ。

新たな通訳ウィル・アイアトンの隣で、大谷翔平は今回のスキャンダルについて簡潔に説明した。自分がスポーツ賭博に関与したことはなく、ブックメーカーを利用したこともない。通訳を務めていた水原一平が自分のお金を盗んだ。大谷の代理人に対して、大谷が借金の肩代わりをしてくれたと伝えたのも「嘘」だった。そう大谷は話した。

水原は3月20日、ロサンゼルス・ドジャースのチームミーティングで自身がギャンブル依存症であること、近々このスキャンダルが明るみに出ることを告白した。このとき大谷は初めて何かがおかしいと気付き、水原と一対一で話した。そして彼から、大谷自身の口座からブックメーカーへの送金を繰り返し、巨額の借金を清算したと聞かされた。

事件の構図は単純だ。大谷の身に降りかかった問題は誰にでも起こり得る。詐欺師や嘘つきを信用し、気を許し、簡単にだまされてしまう。 人間関係の機微や心理に関する日米の文化的違いはさておき、大谷の話が正しいと仮定すれば、現時点で大谷の説明に矛盾点はない。

それにしても、水原は大谷に、お金の使い道についてどう説明していたのだろう。200年以上前に野球というゲームが考案されて以来、野球をやった選手は何億人もいるはずだが、その誰よりも、おそらく大谷は優れている。ひとたびフィールドに立てば、打者としても投手としても、決して相手の隙を見逃さない。そんな大谷が、身近にいた人間から知らないうちにお金を盗まれる。そんなことがあり得るだろうか。

大谷の輝かしい未来を、閉じるも開くもアメリカ人次第だ。弁護士やメディアのご意見番、MVP選出の投票者、お金を払って球場に来るファン、大谷が広告塔を務める商品の消費者たちがカギを握る。

大谷がマイケル・ジョーダンやベーブ・ルース、タイガー・ウッズ、トム・ブレイディ、レブロン・ジェームズのようなスポーツ界のレジェンドになれるかどうか。それを決めるのは集合体としてのアメリカ人の心理ということになるだろう。

「火のない所に煙は立たず」

アメリカ人は本能的に大谷を信じたがっている。大谷ほど「前例のない」才能にあふれた選手は、一世代にようやく1人現れるかどうかだ。しかし、無比の才能でスポーツの歴史を塗り替えるアスリートに不祥事が付きまとうのも事実だ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国大統領が戒厳令、国会は「無効」と判断 軍も介入

ビジネス

米求人件数、10月は予想上回る増加 解雇は減少

ワールド

シリア北東部で新たな戦線、米支援クルド勢力と政府軍

ワールド

バイデン氏、アンゴラ大統領と会談 アフリカへの長期
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計画──ロシア情報機関
  • 4
    スーパー台風が連続襲来...フィリピンの苦難、被災者…
  • 5
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 6
    なぜジョージアでは「努力」という言葉がないのか?.…
  • 7
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    「92種類のミネラル含む」シーモス TikTokで健康効…
  • 10
    赤字は3億ドルに...サンフランシスコから名物「ケー…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story