コラム

「時間はロシアの味方」の意味──苦戦と屈辱が続くも「プーチンの戦争」は今年も終わらない

2023年01月27日(金)13時00分
ウクライナ兵

東部バフムートの前線で対空砲を撃つウクライナ兵 CLODAGH KILCOYNEーREUTERS

<大方の予想を裏切ってロシアの思惑どおりには進んでいないが、プーチンには勝利を諦めない理由、諦められない理由がある>

もし1年前の今頃、その後にウクライナで起きたことを正確に言い当てていた人がいたとしても、誰もその言葉を信じなかっただろう。

世界2位の強大な軍隊を擁するロシアが隣国のウクライナに猛攻を仕掛け、その全土を支配下に置こうとした。ところが、ウクライナは11カ月にわたりロシアの攻撃を持ちこたえただけでなく、首都キーウ(キエフ)からロシア軍を追い払い、さらにはハルキウ(ハリコフ)やヘルソンでも反転攻勢に成功している。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領(侵攻前の時点では支持率が極めて低迷していた)は今も健在であるばかりか、世界で尊敬を集める指導者になった。

ウクライナ戦争は、これまで多くの人の予想を裏切り続けてきた。この先の展開を見通すことも難しい。報道によると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナでの軍事作戦を指揮する総司令官として、これまでのセルゲイ・スロビキンの代わりに、軍制服組トップのワレリー・ゲラシモフ軍参謀総長を任命した。

これは、ロシア軍が近く大攻勢をかけるために、軍の制服組トップを責任者に据えたと解釈すべきなのか。それとも、民間軍事会社ワグネルを率いる実業家エフゲニー・プリゴジンの増長ぶりが嫌われて、プリゴジンとは犬猿の仲として知られるゲラシモフが総司令官に任命されたとみるべきなのか。

戦争開始直後の私がまだモスクワに滞在していた頃、初期の攻勢に失敗したためにゲラシモフが解任されたという噂が広がったことがあった。開戦後1週間もたたずにキーウが陥落するだろうというのが世界の情報機関の大方の予測だったが、実際にはロシア軍が敗走する結果になっていたからだ。

核のボタンは押されるのか

ロシア寄りの軍事ブロガーですら、現代の戦争の歴史で最も無能な司令官だとゲラシモフを嘲笑していた。それに対し、スロビキンは、シリアでの残忍な戦いを指揮したことで名をはせ、今回の戦争でもウクライナ軍の反撃の勢いを止める成果を上げた人物だ。このロシア軍人事をどのように理解すればいいのだろうか。

プーチンは、この戦いを「特別軍事作戦」と一貫して呼び続けてきた。しかし、軍参謀総長の職にあるゲラシモフを総司令官に任命したということは、これが本格的な戦争であると正式に認めたと見なせるだろう。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表

ワールド

中国、日本人の短期ビザ免除を再開 林官房長官「交流

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story