コラム

「時間はロシアの味方」の意味──苦戦と屈辱が続くも「プーチンの戦争」は今年も終わらない

2023年01月27日(金)13時00分

230124p18_UKH_04.jpg

「核兵器化」が取り沙汰されるザポリッジャ原子力発電所 ALEXANDER ERMOCHENKOーREUTERS

西側の分析は非現実的?

あるロシア人研究者は私にこう語った。「ロシア人の精神を支えてきたのは、(第2次大戦でナチス・ドイツの侵攻をはね返した)『大祖国戦争』の記憶だ。英雄的な行動と犠牲心と高い能力により、多くの人命を救ったことを誇りにしていた。ところが、チェチェンやウクライナでは、戦闘に勝つことができず、町を瓦礫の山に変えただけだった。私のアイデンティティーは崩壊した」

ロシアにとって最良のシナリオは、2014年に奪った領土を拡大することだが、そのために10万人をはるかに超えるロシア兵の命が失われる公算が大きい。さらに無数の子供や母親を殺したロシアの行為に対し、欧米では民間人虐殺の悪評が定着している。シリアやチェチェンと同様に多くの犠牲を伴う勝利を収めたとしても、ロシアは経済成長や国民の繁栄のためではなく、欧米に接近したウクライナを罰するためだけに残虐行為を行ったことになる。

ほぼ欧米の手で設計され、運営されている国際社会で、プーチン政権はどうやって地位を保つのか。残り少なくなった同盟国でさえ、ウクライナ侵攻とその犠牲を積極的に支持しているわけではない。

ただし、欧米の解説や分析には問題が1つある。ロシア側の苦戦を過度に強調していることだ。あるロシアの友人は、欧米の非現実的な戦争の評価をこう嘲笑する。

確かにウクライナは屈服していないが、まだ1年しかたっていない。ウクライナの国土はイラクより40%近く大きく、後ろに控える世界最強のNATO軍はウクライナ軍の訓練に10年近く費やしてきた。まだ完全に屈服していないことがそんなに不思議か。ならばアメリカはアフガニスタンでどうなったか――。

実際、プーチンは欧米のどの指導者よりも国内での人気が高く、ロシア経済は制裁を何とか耐えてきた。また、ウクライナでの傀儡政権の樹立というロシアの至上命題が未達成でも、まだウクライナを徹底的に破壊してロシアへの脅威を除去するという2次的、3次的目標がある。

昨年、ウクライナのGDPは少なくとも30%以上減少した(ロシアは4%未満)。国外に脱出した何百万人ものウクライナ人が戻ることはなく、ロシアへの難民(強制であれ自発的であれ)は、ロシア軍の死者の10倍いる。一方、侵攻当初に国を離れたロシア人は帰国しつつある。

ロシアの管理下にある天然資源は、クリミアを併合した14年よりも増えている。たとえヘルソンやハルキウを奪えなくても、1月13日に制圧したとされるソレダルの豊富な塩は手に入るかもしれない。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ベイルート空爆でヒズボラ南部戦線司令

ビジネス

米2月小売売上高0.6%増、予想上回る エネ高騰が

ワールド

トランプ氏、イランから「かなり早期」に撤退へ NA

ワールド

イラン新指導者が停戦要請、ホルムズ海峡開放されれば
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 5
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 6
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 7
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story