コラム

「将来の大統領候補」ハリスの人気が凋落した理由

2022年01月19日(水)11時00分

大統領予備選でも急失速の原因になったハリスの重大な欠点とは GREG NASHーPOOLーREUTERS

<輝きを失った背景には失言や人種差別なども指摘されるが根本的な問題はそこではない>

カマラ・ハリスは、ついに現代アメリカ史上最も不人気な副大統領になってしまった。

11月の世論調査では支持率が30%を割り込んだ。副大統領就任当時の輝きはどこへ消えてしまったのか。

人気急落の要因としては、バイデン政権で任されている政策の難しさ、不安定なコミュニケーション、そして女性初・黒人初・アジア系初の副大統領として直面する差別が主に指摘されている。これらの指摘は、いずれも的を射ている面がある。

まず、ハリスはバイデン政権で移民政策の陣頭指揮を執っているが、政権の移民政策を支持する人は35%にすぎない。しかも、移民問題はハリス自身の看板政策でもあるので、支持率へのダメージがひときわ大きいとされる。

また、コミュニケーション面にも確かに問題がある。つい最近のテレビインタビューでも救いようのない失言をした。今日のアメリカ社会のムードを「マレーズ(沈滞)」という言葉で表現したのだ。

アメリカがエネルギー危機などで苦しんでいた1979年、当時のカーター大統領は国民に向けてテレビ演説を行い、アメリカの「自信の危機」を指摘した。カーター自身は「マレーズ」という言葉を用いたわけでなかったが、この演説はマレーズ・スピーチと呼ばれるようになった。

翌80年の大統領選でカーターが再選に失敗したこともあり、政治の世界で「マレーズ」は負け犬を即座に連想させる言葉になっている。ハリスがインタビューでこの言葉を使ったことは、超弩級の失態と言わざるを得ない。

支持率急降下に関する最も手っ取り早い説明は、性差別と人種差別に原因を求めるものだ。この説を主張する人たちは、女性と男性、マイノリティーと白人の間で、ハリスの支持率に大きな落差があることを指摘する。

「ガラスの天井」を打破した人物は、とりわけ厳しい目で見られるというのだ。この3つの指摘は全て一面の真理を含んでいるが、いずれも人気急落の最大の根本原因ではない。

問題は、ハリスが「悪いボス」だという点にある。表舞台で活動する期間が長くなるほど、この欠点が際立ってきている。

思い出してほしい。2020年大統領選の民主党候補者指名レースの序盤、ハリスは注目株として脚光を浴び、一時は世論調査の支持率で2位に立ったこともあった。

しかし、勢いは長続きしなかった。陣営の内紛、コミュニケーションと資金集めの不手際、ボランティアの士気低下により、選挙運動はうまくいかなくなり、多くのスタッフが逃げ出した。

副大統領就任後も同じことが繰り返されている。幹部の退任が相次いでいるのだ。スタッフはハリスを「沈みかけている船」と感じ、早々に脱出しようとしているという話も聞こえてくる。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米3月小売売上高1.4%増、約2年ぶり大幅増 関税

ワールド

19日の米・イラン核協議、開催地がローマに変更 イ

ビジネス

米3月の製造業生産0.3%上昇、伸び鈍化 関税措置

ビジネス

カナダ中銀、金利据え置き 米関税で深刻な景気後退の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 9
    あまりの近さにネット唖然...ハイイログマを「超至近…
  • 10
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 10
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story