コラム

アメリカはいつまで(愚かな)債務上限論争を続けるのか

2021年11月16日(火)13時00分

ニューヨークの「借金時計」は政府債務への危機感をあおるが……SHANNON STAPLETONーREUTERS

<党派を超えて経済の知識が不足している米政治家は財政破綻より怖い>

ニューヨークのタイムズスクエアの近くに、不吉な「時計」が設置されている。アメリカの政府債務の残高をリアルタイムで示す「借金時計」だ。

この時計は、気が遠くなるくらい膨大な桁数の債務残高だけでなく、誰もが理解しやすいように、ご丁寧に納税者1人当たりの金額も表示している。もし日本に同様の借金時計があれば、やはりぞっとするような数字が表示されるはずだ。

しかし、日本が巨額の政府債務を抱えつつも、世界で最も安定した民主主義体制を維持できていることも事実だ。

日本やアメリカのような国は、本当に政府債務の膨張を心配する必要があるのか。ここで注目すべきなのが「現代貨幣理論(MMT)」と呼ばれる経済理論だ。

ひとことで言えば、自国通貨を発行している国は、自らデフォルト(債務不履行)を選択しない限り、財政破綻に陥ることはない、という考え方である。この理論によれば、アメリカの政治家が抱く政府債務への恐怖心は非合理なものということになる。

アメリカの政治家は党派を超えて、経済の知識が不足していると言わざるを得ない。

いま野党・共和党は債務上限(連邦政府の借り入れ限度)の引き上げを簡単に認めるつもりはないが、現大統領のジョー・バイデンも2000年には、当時のブッシュ政権による債務上限の引き上げに反対していた。

共和党は11年と13年、債務上限の引き上げを交渉材料にして民主党政権から譲歩を引き出そうとしたこともあった。そもそも、どうして連邦政府の借り入れ限度が定められているのか。それはアメリカ人が政府債務を正しく理解していないからだ。

多くのアメリカ人は、国家財政を家計になぞらえる考え方をうのみにして、政府債務の増大に怯えている。しかし、自国通貨を発行している有力な民主主義国が政府債務の膨張により破綻した例はない。

ギリシャが苦境に陥ったのは、ユーロ圏に参加して通貨発行権を手放したために、貨幣が不足したからだ。一方、もしアメリカが債務上限を引き上げず、デフォルトに陥るようなことがあれば、悲惨な結果が待っている(アメリカ政治の党派対立が激化していることを考えると、このシナリオが現実になる可能性は否定できない)。

格付け会社ムーディーズの予測によれば、その状態がごく短期間でも生じれば、500万人の雇用が失われて、アメリカのGDPは4%縮小するという。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story