コラム

全米抗議デモでトランプが「宣戦布告」した極左集団アンティファの脅威は本当か

2020年06月10日(水)14時14分

アンティファの旗を身にまとうデモ参加者(6月1日、ボストン) MATTHEW J. LEEーTHE BOSTON GLOBE/GETTY IMAGES

<共和党も無政府主義的と非難する勢力の意外な実態と怖れられる真の理由>

警察官に首を押さえ付けられて死亡したジョージ・フロイド事件に対するアメリカでの抗議活動は激化の一途をたどっている。

このデモの背景に極左集団アンティファの存在がささやかれているが、実態を見れば本当に恐ろしいのは「彼ら」を不必要にテロリスト扱いする現政権と、マイノリティー化を恐れる白人至上主義者の存在だ。

20200616issue_cover200.jpg

アンティファとは、ファシズムやナチズムに反対するリベラル派が生み出した概念であり、特定の組織ではない。明確に定義することはできない無定形の存在だ。

共和党の政治家たちは、抗議行動に暴力と破壊を持ち込む無政府主義的な勢力だと非難する。だが、アンティファが計画的に暴力行為に及んでいることを示す証拠はほとんどない。彼らは全米のどの都市でも政治団体として表立った動きは見せておらず、活動の大半はネット上のネオナチの監視という地味な骨折り仕事だ。

ところがトランプ米大統領は5月末、ツイッターでアンティファをテロ組織に指定すると表明。事実上の「宣戦布告」に出た。実際には存在しない敵や脅威をでっち上げるという権威主義体制の教科書そのものの対応だ。

確かに2017年、バージニア州シャーロッツビルで若い抗議デモ参加者を殺害したネオナチとの武力衝突にアンティファのメンバーが加わっていたことは確認されている。ただ彼らがその場にいたのは白人至上主義者とネオナチの監視のためであり、死傷者を出した事件は全てネオナチの仕業だった。

にもかかわらず、トランプは白人至上主義者による暴力とその被害には関心を示さず、アンティファが今回の暴動騒ぎで器物損壊行為に関与したという証拠のない陰謀論を耳にすると、すぐさま彼らにテロリストのレッテルを貼ろうとした。法と秩序を守るべき警察官による黒人男性殺害に対する抗議の声を、トランプは独裁者のように振る舞う機会として利用した。

この6月初めの行動は、現代アメリカ民主主義に対する最も明白な挑戦だ。6月1日、ホワイトハウス前では黒人への差別反対を訴える「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事)」運動の参加者が平和的なデモを行っていたが、トランプは彼らを催涙ガスで排除するよう命じた。理由はただ1つ、全員白人のスタッフを引き連れて教会まで歩き聖書を持つ自分の姿を写真に撮らせるためだ。教会指導者はトランプの行動を非難する声明を出した。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story