コラム

今回は違う──銃社会アメリカが変わり始めた理由

2018年03月06日(火)15時50分

フロリダ州議会で州上院議員たちと話すマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校の生徒。事件で亡くなった友人の写真を掲げている(2月21日) Colin Hackley-REUTERS

<フロリダ州で起きた高校銃乱射事件。悲惨な事件がいくら繰り返されても変わらなかったアメリカ社会が、若者の力で動きだした。本誌3月13日号「アメリカが銃を捨てる日」特集より>

はっきり言おう。あなたと大統領のこの1週間のコメントは、情けないくらい説得力がない──。

バレンタインデーに起きたフロリダ州のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件。生徒14人を含む17人が犠牲となった事件の1週間後、同校から車で20分ほど南に行った所にある町サンライズで、CNN主催の対話集会が開かれた。

地元選出の3人の議員と郡保安官、そして全米ライフル協会(NRA)の広報担当者が招かれた会場には、フロリダじゅうから数千人の高校生や保護者が詰め掛けた。そこでCNNの司会者は、全犠牲者の遺族代表に議員らゲストに質問する機会を与えた。

14歳の娘ジェイミーを失った父親フレッド・ガッテンバーグは、2番目の質問者だった。観客席に座っていたガッテンバーグは、マイクを持って立ち上がると、マルコ・ルビオ連邦上院議員を質問相手に指名した。ルビオは3人の議員の中で唯一の共和党議員で、16年の米大統領選では共和党の大統領候補指名争いに名乗りを上げたこともある有力議員だ。

「ルビオ議員、あなたの開会スピーチを聞きました。ありがとうございます。あなたのことを好きになれたらいいのですが、問題があります」。そう言うと、ガッテンバーグは冒頭の言葉を述べた。「あなたと大統領のコメントは、情けないくらい説得力がない」

たちまち会場は割れるような大喝采に包まれた。「そのとおりだ!」

人々は次々と立ち上がり、歓声はどんどん大きくなる。ルビオは顔を青白く引きつらせ、もじもじと体を左右に揺らすばかり。そこでガッテンバーグは、畳み掛けるように言った。「私の目を見て言ってください。私たちの子供たちが『狩り』に遭った事件で、銃が大きな役割を果たした、と。私の目を見てそのことを認めて、なんらかの手段を講じると言ってください」

再び大喝采が起きた。ルビオは何度かうなずいた後、「フレッド、まずは先週のコメントについて説明させてほしい」と、口を開いた。「繰り返すが......」。今度は、会場は激しいブーイングと非難の声に包まれた。あまりのやじに、司会ではなくガッテンバーグが、「(ルビオの話を)聞きましょう」と聴衆に呼び掛けたほどだ。

娘の葬式を終えたばかりの父親が、込み上げる感情を必死で抑えながら、大物議員にストレートな質問をぶつけたのに対して、真剣に耳を傾けているそぶりをしつつ実際には全く態度を変えない政治家。それを目ざとく見破り、政治家を徹底的に批判する市民。それは実に胸のすく光景だった。ルビオがNRAから300万ドル以上の政治献金を受けていることを考えると、なおさらだ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領、防空強化の必要性訴え ロ新型中距

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story