コラム

「南向き信仰」に代わる「北向き愛」。強烈な日差しで超高層マンションに発生する灼熱地獄

2022年07月19日(火)18時15分

朝6時に目が覚めると室温はすでに30度の季節がやってきた HAKINMHAN-iStock.

<「南向きなら無条件でありがたがる」のは日本人だけ。今の日本では南向きにこだわる必要もなくなったのに、買って後悔する人が多いわけ>

朝6時過ぎに目が覚めたとき、すでにリビングの室温は30度。今日も暑さとの戦いが始まる......そんな報告が届いたのは、関東甲信地方などの梅雨明けが発表された6月27日から数日経った、よく晴れた日のこと。報告者は、超高層マンションの住人。カーテンを通して差し込む朝日で室温がぐんぐん上昇。冷房を付けていない室内はうだるような暑さになっているという。

早速、冷房を付けたが、日差しが入り続ける昼までは、室温を下げる効果はたいして期待できない。梅雨明けが早かったため、今年はこの状況が長く続くと思うと、うんざりすると、暑さを嘆く報告が続いた。

その後、台風4号の影響で涼しい日が続いたが、再び猛暑が戻ってくるのは間違いない。

超高層マンションで南を向いた住戸は夏の暑さが半端なく、室内が灼熱地獄になる──この状況は徐々に知られるようになった。

あまりの暑さに閉口し、遮光断熱カーテンを新調。脇から日差しが漏れるのを防ぐため、ガムテープで目張りまで行う。その結果、夏の間、昼間も暗い室内での生活を強いられるマンション住人もいる。

結果として、「超高層マンションを買い替える人が二度目に選ぶのは北向き住戸」という"不動産あるある"も誕生した。

「超高層の南向きなど二度と住みたくない。愛おしいのは北向き」という「北向き愛」が語られる一方で、住んだことがない人は「そうは言っても、やっぱり南向きがよい」と考えがち。そのため、超高層の南向き住戸は中古市場で意外なほど高く売れる。

一方で、北向き住戸の価格は割安に設定されるので、南向きから北向きへの買い替えはいまのところすんなり実行できる。

ただし、南向き住戸が中古として売り出されるのは主に冬。「寒い冬でも、南向きなら、暖かい」とアピールできる時期だ。間違っても、真夏の状況を見せて売ろうとはしない。

夏の状況を見せたら、誰も買わないだろう。しかし、冬なら、喜んで買ってもらえる。

「南向きならば、無条件でありがたがる」という人がいるのは、日本人に「南向き信仰」が根強く残っているからだ。

「南向き」をありがたがるのは日本人くらい?

日本で「南向き住宅」が喜ばれるのは、高温多湿の気候が原因だ。

夏に気温が上がるし、湿気も多くなる日本では、家の中にカビが発生しやすかった。カビは木を腐食させるし、カビを餌とするダニの発生を促してしまう。家の寿命が短くなるし、健康被害の心配も生じてしまうため、カビが生じにくい家が求められた。日差しがさし込み、乾いた南風を採り入れやすい南向き住宅が喜ばれたわけだ。

プロフィール

櫻井幸雄

年間200件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。・公式サイト ・書籍/物販サイト

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物2週間ぶり高値近辺、ロシア・イラン巡る緊張

ワールド

WHO、エムポックスの緊急事態を継続 感染者増加や

ワールド

米最高裁がフェイスブックの異議棄却、会員情報流出巡

ワールド

コンゴ国営鉱山会社、中国企業の買収阻止へ 重要鉱物
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story