コラム

中国経済、波乱の1年の終わりに

2015年12月28日(月)16時15分

華南地域の中心都市の1つ、広州市の夜景 plavevski/istock.

 中国の景気は緩やかな減速が続いています。こうしたなかで、しばしば過度の中国悲観論が台頭するのは何故でしょうか?私は、中国政府の政策の拙さや説明不足(不透明性)が様々な思惑や疑心暗鬼を招いていることが、大きな要因となっていると考えています。今回はこの問題を取り上げてみようと思います。

過度の中国悲観論が台頭するのは何故か?

 2015年の中国の実質GDP成長率は前年比6.9%程度と、政府目標の7%前後を若干下回るとみています。2010年の同10.6%をピークに5年にわたり減速傾向が続いていることになります。ただし、2014年の同7.3%からの減速幅は限定的であり、2015年に入って景気が急速に悪化したわけではありません。とは言いながらも、中国の景気が数字以上に悪く感じられ、しばしば過度の中国悲観論が台頭するのは何故でしょうか?大きな要因の一つは、株価対策、為替政策の拙さなどから中国経済もしくは政府の政策遂行能力への様々な思惑や疑心暗鬼を生み、中国悲観論の台頭を引き起こしたことではないかと考えています。人民元にまつわる話は12月16日の当コラム「緩やかな人民元安か暴落か、2つの可能性」で紹介しましたので、今回は株価急騰・暴落に対する政策対応への評価について話します。

 中国の株式市場にとって、2015年はまさに波乱の年でした。信用取引や場外配資(日本のノンバンクに相当します)と呼ばれる資金融通会社を経由した高レバレッジ(信用取引は委託保証金の2倍、場外配資は5倍~10倍)の資金流入を背景に、上海総合株価指数は6月12日に5,166ポイント、年初来59.7%高を記録しました。この間、中国共産党機関紙である人民日報が、4月21日付けで「4,000ポイントが強気相場のスタート」と題する論説を掲載するなど、株式投資・投機を煽ったこともあります。

 しかし、相場がバブル的な様相を呈したのを警戒した証券当局はこうした資金流入を厳しく抑制し、市場は一転して売りが売りを呼ぶ展開となりました。指数は8月26日に2,927ポイント、年初来9.5%安(高値比43.3%)へ急落しました。

 もちろん、中国政府は株価暴落に手をこまねいていたわけではありません。6月下旬以降は、追加金融緩和や、証券会社・機関投資家・政府系機関・国有企業による株式購入など株価維持策を矢継ぎ早に発表したほか、1)「悪意」のある空売りを禁止し、違反者に対して公安部が捜査を実施、2)全上場会社の半分以上が株価急落回避を目的に一時取引を全面停止にするといった「なりふり構わない」株価対策を打ち出しました。特に、2)は異常な事態です。売ることも買うこともできないというのは、流動性の喪失を意味し、投資家の意向やマーケット機能を完全に無視したやり方でした。それでも、8月下旬まで株価が下げ止まらなかったのは既述の通りです。

プロフィール

齋藤尚登

大和総研主席研究員、経済調査部担当部長。
1968年生まれ。山一証券経済研究所を経て1998年大和総研入社。2003年から2010年まで北京駐在。専門は中国マクロ経済、株式市場制度。近著(いずれも共著)に『中国改革の深化と日本企業の事業展開』(日本貿易振興機構)、『中国資本市場の現状と課題』(資本市場研究会)、『習近平時代の中国人民元がわかる本』(近代セールス社)、『最新 中国金融・資本市場』(金融財政事情研究会)、『これ1冊でわかる世界経済入門』(日経BP社)など。
筆者の大和総研でのレポート・コラム

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story