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ロス山火事で崩壊の危機、どうなるアメリカの火災保険
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多くの豪邸が焼失したロス近郊のパシフィック・パリセーズ David Ryder-REUTERS
<被害が大きかったパシフィック・パリセーズなどの火災保険金の支払いは天文学的な額に膨らむ>
今年1月7日に確認された南カリフォルニアの山火事は、ロサンゼルス郡などで拡大、特に同郡のパシフィック・パリセーズは甚大な被害を受けました。現時点では大規模な火災は鎮火したものの、まだ4箇所以上の地域で延焼が続いており油断のできない状況が続いています。現地13日の時点では少なくとも164平方キロの面積が焼けており、死者は25人、焼失家屋数は1万2000軒以上、避難者は20万人以上、という空前の大災害となっています。
特にほぼ全域が炎に包まれたパシフィック・パリセーズは、サンタモニカ海岸のすぐ西に位置した海岸沿いの高級住宅地です。多くの豪邸が立ち並び、調査会社のデータによれば約9000軒ある住宅の平均市場価格は310万ドル(約4億8700万円)であったそうです。その大半が焼失したことになります。
そこで問題になるのが保険の扱いです。まず、今回の被害に関する損失は、ほぼ100%保険でカバーされるはずです。アメリカでは、不動産ローンを借り入れる際には火災保険への加入が義務付けられているからです。住宅代金を全額手元の現金で購入するケースは少ないし、そうした人々も火災保険は購入している可能性が高いと考えると、例外はごく僅かであると考えられます。
ちなみに、アメリカの火災保険は損失がカバーされるだけでなく、避難期間から再建期間の住居費も補償されます。このため、被災地域の周辺ではかなり広域にわたって賃貸住宅の家賃相場が暴騰しており、当局が違法な値上げの摘発に躍起になっていたりします。
火災保険制度の今後が問題
一部には、被災地域は山火事被害の危険性が指摘されていたので、事前に保険契約をキャンセルさせられていたという報道もあります。これは事実であり、実際に1600例ほどが保険を切られていたようです。ですが、カリフォルニアの場合は、民間の保険会社が火災保険の付保を拒否した場合は「フェア」制度という公的保険に加入できる法律があります。無保険では住宅ローンを継続できないので、ほぼ全件が、この「フェア」に移行していたと考えられます。
ですから基本的に被災者は救済されます。ちなみに、アメリカの場合に毎年大きな被害の出る竜巻の場合も、火災保険の特約でほぼ100%被害が補償されます。但し、広域に被害の出る傾向のある水害の場合は民間の保険は効きません。そこでアメリカの場合は、連邦政府の管掌する洪水保険というのがあり任意加入となっています。
問題は、火災保険制度の今後です。今回の被災のほぼ100%が補償されるということは、火災保険金の支払いも天文学的な数字になります。各保険会社は、再保険(保険金支払いに備えた保険)に入っていますから最終的な負担は、再保険業界に回りますが、その負荷は甚大な規模になると言われています。また公的保険「フェア」も加入している被災者に払う保険金が大きな負担になるでしょう。
そうなると、民間の保険会社は益々この地域の火災保険から手を引くことになります。となれば公的保険「フェア」への移行が拡大し、次に大火災が起きた場合には「フェア」が破綻してしまうとか、税金を通じて補填することで州民の負担が拡大することになります。州政府など行政サイドは、とりあえず「山火事を契機とした民間保険の撤退」を1年間凍結、つまり「撤退を認めない」という措置を取りましたが、その後はどうなるか分かりません。
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