コラム

第二次トランプ政権はどこへ向かうのか?

2024年11月07日(木)21時20分

異例の「返り咲き」を果たしたトランプ Brendan McDermid-REUTERS

<実業家のマスクや実務家のバンスといった天才級の頭脳を周囲に置いた二期目は、現実的な保守路線へと帰結するのでは>

米大統領選の結果が判明しました。投票日の深夜から翌日未明にかけて当確が出るというのは、2016年以前に戻ったようでもありますが、とにかく混乱した2020年と比べると、画期的な改善を見たと思います。共和党が前回は否定していた期日前投票、郵送投票を認めて積極的に投票を促したことに加えて、これを受けて各州の選管が作業の前倒しを徹底するなど、事務方の努力が実ったわけです。選挙結果の信頼性も含めて、民主主義は機能したとも言えます。

それはともかく、一度落選して退任した大統領が再び当選して就任するというのは、1892年に民主党のグローバー・クリーブランドが2度目の当選をして以来となります。この時も、雇用と関税をめぐるバトルが激しく、労働者の利害を代表して大企業を批判したことで、クリーブランドは返り咲きを果たしました。それから132年後の今回は、グローバル経済を推進する民主党に対して、自国ファーストを掲げて「現状不満層」の結集に成功したのが共和党のトランプ氏ということで、アメリカの対立軸は1世紀半を経て大きく入れ替わったことを示しています。


トランプ氏の勝因は、とにかく経済問題が主だと思います。物価への強い不満、雇用への強い不安が巨大なエネルギーとなって現状批判のモメンタムを作り出しました。2016年の勝利が価値観やカルチャーの戦いだったとすれば、今回は経済の現状への不信任というのが主だと思います。

それはともかく、高齢で再選へ向けた候補から降りたバイデン大統領と、大統領を目指して落選したハリス副大統領の求心力は、これで雲散霧消することになりました。事実上、この11月6日からは共和党による次期政権、つまり第二次トランプ政権が動き出すという理解をして良いと思います。

マスク、バンスという天才級頭脳

では、この第二次政権はどんな姿になっていくのか、まず指摘できるのは第一次政権とは本質が異なるということです。もちろん、反移民、反多様性といった保守カルチャーについては変わらないと思いますが、その他では大きく3点が異なります。

1点目は、政権の陣容です。一期目の場合は、トランプ氏の周囲にはスチーブン・バノン氏のような「ポピュリズム発信の試行錯誤」をするグループがありました。一方で、歴代の補佐官や長女イバンカ氏夫妻などは、これとは別に「現実の政治」との橋渡しをしていました。

トランプ氏は、時にバノン氏などと相談して過激発言をしたり、わざとツイートを炎上させたりして求心力を維持。それが行き過ぎると、イバンカ夫妻やホワイトハウス官僚の言うことを聞いて、常識的な政策を行うなどの振幅がありました。

ところが、今回の陣容は異なります。まず、トランプ氏の側近としては、イーロン・マスク氏と、バンス次期副大統領という、天才級の頭脳が控えています。マスク氏には、良くも悪くも文明論的な独自の世界観があり、バンス氏には議会との人脈、軍歴、ビジネス歴などを通じて獲得した実務能力があります。

彼らが、おそらく政権の軸となると思われますし、既に78歳と高齢のトランプ氏は、これまで以上に彼らを重用し、その周囲には新しい世代の実務家が集まるかもしれません。日本の外交においては、一期目の場合は安倍晋三氏の必死の努力で、基本的には反日政策に走る潜在リスクを、首脳間の信頼関係で最小化するという作戦が成功しました。ですが、今回はトランプ主義の裏にマスク氏の思想、バンス氏の新保守主義などが控えていることから、彼らの深謀遠慮も読み解きながらの外交が必要です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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