コラム

セブン買収提案と、日本経済の今後

2024年08月21日(水)15時00分

セブン&アイ・ホールディングスはカナダの企業から買収提案を受けているが…… Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<急激な円安によって外国企業による日本企業の買収は容易になっている>

コンビニチェーンの「セブンイレブン」と総合スーパー「イトーヨーカドー」を展開する「セブン&アイ・ホールディングス」は、カナダのケベック州に本拠があるコンビニエンスストア大手「アリマンタシォン・クシュタール」から買収提案を受けていました。

この動きですが、最新の状況ではアメリカの公取が、買収に異議を唱える可能性が高いという報道が出ました。日本の「セブン&アイ」は、アメリカの「セブンイレブン」も保有していることから、両社の経営統合によって統合後の新会社が必要以上に強い力を持つのは違法だという見方です。つまり統合により、商品やサービスの価格が上昇し、消費者に悪影響を及ぼす恐れがある、そうした観点からアメリカの公取が介入するというストーリーです。


ということで、実際に買収が成立するかは不透明となっています。ですが、今回の買収提案というニュースは、日本社会に少なからずショックを与えました。日本を代表するコンビニチェーンの「セブンイレブン」(創業はアメリカ)は、日本の消費文化そのものであり、それが外資の手に落ちるというのは、心理的に大きな違和感をもたらしたわけです。

これは、ちょうど35年前の1989年にソニーが、アメリカのコロンビア映画を買収した際に、アメリカで大きな反発が起きたのと現象としては似ています。当時のアメリカでは、アメリカを代表するエンタメ産業、その中の大きな部分が外国の手に落ちるということへの強い違和感が語られていました。

今の日本企業はお買い得?

ソニーは、ビデオカセットや、ビデオディスクなど媒体や再生機器など「モノ」のビジネスだけでなく、内容に当たる「ソフト」もビジネスの全体構想の中に組み込もうとしていました。また、コロンビア映画が優良企業だということにも、またリスクのある映画製作について日本には全くないノウハウがあることに目をつけていたのでした。

一方で、今回の「セブン買収提案」については、構図が全く違います。1つには、「セブン&アイ」の場合は既に過去形になった総合スーパーという「お荷物」を抱えていることから、株価が低迷しており、全体的に「北米のセブンがついてくるのならお得」という評価がされた可能性があります。また、為替についても1989年当時は円高パワーで日本が米国企業を買うことが可能になっていたわけですが、反対に今回は、円安のために北米の企業が日本企業を買うのが容易になっているという問題もあります。

では、このような買収提案というのは、「セブン&アイ」に特別な脆弱性があっただけなのかというと、違うと思います。日本の大企業はたとえ上場していても、欧米やアジアの上場企業と比べて薄利、つまり低い利益率に甘んじています。特に小売の場合はデフレ傾向のある消費の中で、なかなか利幅が取れないのです。

最近でも日本の「セブンイレブン」は、消費者の節約志向から来店数が減少していることに危機感を抱いて「399円弁当」を投入しています。これは、いくら岸田政権が賃上げを実現したといっても、それは日本経済のグローバル経済にリンクしている部分だけで、そこからのトリクルダウンは限定的だからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story