コラム

加速するAI実用化、日本がやるべきことは?

2024年06月12日(水)11時45分

アップルはオープンAIとの提携による「アップル・インテリジェンス」構想を発表した Jakub Porzycki-REUTERS

<アップルとの提携で、ChatGPTは膨大な量の言語データをアップルユーザーから収集できることになる>

今週10日、アップル社開発者会議(WDC)の基調講演が行われました。今回の目玉は、アップルとオープンAIが包括的な提携をすることで、ChatGPTの機能が多くのアップル製品に実装されるという「アップル・インテリジェンス」構想でした。

スマホなどのデバイスにおけるAIの実用化は、すでに音声認識や画像修正、文法チェックなどでは完全に実用化が進んでいます。ですから、特に衝撃的というわけでもないのですが、市場はこの発表を好感したようで、アップルの株価は上がっています。一部には、AIとのインテグレーションのためには最新のスマホ(iPhone の場合は、15 pro以上でなければ作動しないそうです)への買い替えが進む可能性があり、アップルの業績にはすぐに効果が出てくるという観測もあり、これが株価を押し上げたという解説もありました。


一方で、今回のアップルの発表に噛みついたのが、イーロン・マスクです。マスクは、ChatGPTを提供しているオープンAI社の設立の目的は「全人類への貢献」だったはずだとして、アップル社との提携はこの目的に反すると主張しています。

また、仮にAIのデータとアップルのデバイスが、OSレベルでの深い統合をするのであれば、これは深刻なプライバシーの侵害になるとしています。マスクは、そうした事態になったら、自分の会社内にはアップル製品の持ち込みは禁止するなどと息巻いています。

先を越されたマスク?

マスクの懸念ですが、つまりアップル社の端末がオープンAIのデータベースと連携するということは、例えば iPhone の場合に、端末側で ChatGPT のサービスが利用できるだけではないということです。反対に、端末側のデータについて利用者が許諾すると、そのデータがAIのデータベースに登録されるのです。

例えば写真、音声、文書といったものの全てに関して、あくまで許諾を前提としてはいるものの、アップル端末の利用者が生成する猛烈なボリュームのデータが、AIデータベースに入るということです。データの量も大事ですが、特にオープンAIの側からすると、個人が生成し許諾したデータが大量に得られるわけで、その意味合いは大きいと思います。

今回の発表では、アイディアの卵を育てていくアプリであるとか、ユーザーが絵文字を生成して世界で使ってもらう機能なども紹介されていました。こうした機能も、ユーザー個人の利便性を高めつつ、ユーザーの生成するデータによってAIのデータベースを充実させるという発想と表裏一体になっていると考えられます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story