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プールの水出しっぱなしで教員に水道代を自腹請求、問題の3つの背景
「プール指導廃止」を加速させかねない? jaimax/iStock.
<理不尽な負荷が重なっている現場の教員に、世間は心からの同情を寄せている>
川崎市の市立小学校で、教諭がプールに注水する際に誤って数日間水道の栓を閉めず大量の水を流出させた問題で、市がその教諭と上司である校長に水道代金の半額にあたる95万円を支払うよう求めたそうです。
これに対しては「先生個人に支払わせるのはかわいそう」といった批判が市教育委員会に寄せられたようですが、川崎市の福田紀彦市長は「過失の責任は取らないといけない。他の自治体の例から、自腹での半額の支払いが妥当だと報告を受けている」などと主張しており、この発言が更に批判を浴びる事態となっています。
それはともかく、この種の事件で業務上発生したミスによる、金銭的な損失をミスを犯した本人に個人的に負担させるとか、形式的にその上司にも払わせるというのは、良いこととは思えません。
少なくとも、まともな民間企業であれば、直接弁済させることはせず、その代わりに人事考課にマイナスの評価として記録すると思います。また、再度同じようなミスを発生させないような教育研修の対象とするかもしれません。将来大きな功績があれば帳消しにするし、反対に再度似たようなミスを発生させたら、重要な責任を担うポジションへ回すのには慎重になるなど、金銭面ではなく人事配置や育成の観点から対処すると思います。
アメリカ的な人事であれば、むしろ「セカンドチャンス」を積極的に与えて、そこで立ち直り、期待以上のパフォーマンスを実現させるようにします。そうして本人の自信と周囲の評価を一気にプラスに持っていくのです。その代わり、2度目のチャンスで失敗するようであれば、厳しい人事が待っているかもしれません。
世間は教員の味方に
では、個人的に負担させるというのは、何が問題なのでしょうか? 3つ指摘したいと思います。
その前に、あくまで一般論ですが、「自腹を切らされた」ことを納得しない場合に、公私混同を正当化する心理が生まれる可能性が指摘できます。その延長で「被害金額を個人ではなく連帯責任で頭割りしよう」という考え方、あるいは「理不尽な弁済が予測されるので、予め少しずつみんなでカネをプールしておこう」、更には「バレない範囲で、裏金を作って誰も不幸にならないようにしよう」などという発想へとエスカレートする場合もあるでしょう。
ですが、恐らく教員の世界には、過去の一部の警察組織にあったように、「裏金」を作って自腹を回避するという、悪質でふてぶてしいカルチャーはないのだと思います。
問題の第1はそこにあります。もしかしたら「明日は我が身だから、みんなで分担しよう」などと音頭を取る人もいない中で「ミスした教員はカネを払わされてかわいそうだが、どう声をかけていいか分からない」などと、漠然とした暗いムードが職員室を支配しているかもしれません。
その上で、教員たち個々人は膨大な仕事の中で何も動けず、家族からは「自腹を切らされるようなミスは困る」とクギをさされたり、「もうそんな職場は辞めたら」などと言われたり、静かにメンタルをすり減らしているのかもしれません。
今回の件で、世論が教員の味方をしつつあるのは、そうした「大変さ」を理解しながら、心からの同情を寄せているからです。教員の世界というのは、理不尽な負荷が重なっている現場であり、今回のことはその上に更に教員を追い詰めるかもしれない、そんな認識です。
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