コラム

チャットGPTは、アメリカ社会をどう変えるか?

2023年03月01日(水)16時50分

2つ目は、生活の分野です。医者にちょっと複雑な相談をテキストで行う、小売店などが消費者への注意事項を告知する文書を用意する、保護者が教師に対して子どもの様子を報告する、などといった生活の中で「かなり丁寧で、正確性が求められる」レターを書くという局面はあります。そんな場合に、チャットGPT を使えば誰でも一定レベルの英文が書けるというのは便利です。

さらに、そうした利用者からの依頼や問い合わせに応える側では、一々考えて文章を書くのではなく、AIに条件を放り込めば回答を作ってくれるわけです。この点に関しては、このままAIが進化すると、ある程度の知的労働は機械に取って代わられてしまうのではという議論もあります。

3つ目は、プログラミング(コーディング)の分野です。チャットGPT には、当初からプログラムを入力すると、より良いプログラムの書き方を返してくるという機能があります。もちろん、産業別に込み入った条件があったり、複雑なインターフェースがあったりという条件下では、要件を入れただけでは、使えるプログラムを返してくるわけではありません。

ですが、スキルの低いプログラマーがダラダラ書いたステップ数の多いプログラムを入れると、短くて切れ味の良いプログラムに書き換えてくれるとか、条件の入れ方のコツを習得すると中級者レベルでも生産性支援ツールとして役立つということは確かにあるようです。デバッグ(プログラムのバグの解決)の機能も結構使えるという声があります。そうしたツールは既に色々出回っているわけですが、チャットGPT が相当なビッグデータを集めているとしたら、業界のゲームチェンジャーになる可能性はあります。

ポリコレに汚染されている?

例えばですが、チャットGPT が実用化されることで、あるスキル以下のプログラマーは不要になるとか、職種の分担が変わってくるとか、あるいはシリコンバレー名物の「面倒な要件を与えてプログラムを書かせる入社試験」が、今まで以上に、やたらに難しくなるかもしれないなどという議論があります。

4番目は、これは使用法ではなく、チャットGPT が出力してくる英文の「味付け」の問題です。昨年12月に使い始めた人の多くは、私も含めて、出てくる英語の文章が「とても丁寧で感じがよく、スッキリしていて、しかも世界中の誰も傷つけないように」書かれていることに驚いたのでした。これは、そのような「味付け」がアルゴリズムの中で設定されているようですし、またその背景には、そのような「味付け」が21世紀の英語圏では最も広範な実用性を持つという判断があると考えられます。

ですが、これに対しては早速「チャットGPT はポリコレに汚染されている」とか「政治的バイアスが不快」という声が上がっています。この問題は、もしかすると2022年のイーロン・マスク氏による「同氏の基準による発言の自由」を掲げての、ツイッター買収のような騒動に発展するかもしれません。ちなみに、イーロン・マスク氏は Open AI の創業メンバーですが、現在は離れています。それはともかく、リベラル寄りとされる チャットGPT に「対抗」して、保守的な立場や、統制的な価値観に基づいたAI開発などの動きが出てくるかもしれません。

いずれにしても、2023年3月初旬の現在、テックの分野では、このチャットGPT が大きな話題になっているのは間違いありません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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