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バイデンが一般教書演説で見せた、「超党派志向」と再選への野心
バイデンの一般教書演説への評価は高かったが、民主党にとっては頭の痛い状況に…… Jacqulyn Martin/POOL-REUTERS
<超党派の融和を打ち出したバイデンの演説は成功と言えるが、これによって大統領選に向けた民主党の党内情勢はますます混迷を深めることに>
バイデン米大統領は、2月7日の東部時間夜9時から、上下両院議員総会を前に一般教書演説を行いました。毎年演説が終わると様々な評価が飛び交うのですが、今回はかなり「良くできた」部類に入ると思います。CNNが直後に行った簡易世論調査では「好感が75%」という数字が出ていましたが、確かにそんな印象があります。
何が成功していたのかというと、とにかく、対立を深めるのではなく超党派の雰囲気を作る、この姿勢を徹頭徹尾一貫させたことです。例えば、トランプ時代の2020年には、議事進行を務めた当時のペロシ下院議長(民主)が、演説が終わった直後に、大統領の演説原稿をビリビリ引き裂くなどということがありましたが、その行為が自然な流れに思われるほど、この時の演説の内容は「左右対立」を煽る内容でした。
それから、わずか3年。今回は全く雰囲気が変わっていました。まず、大統領の登場の前からマッカーシー下院議長(共和)は、民主党のカラーであるブルーのスーツ、上院議長を兼ねるハリス副大統領(民主)は、反対に共和党のカラーであるレッドのスーツで決めていました。この両名の姿をひと目見ただけで、大統領が「超党派」を狙っていること、そして他でもない野党・共和党のマッカーシー議長がこれに協調していることは明らかでした。
やがて大統領が入場し、延々と議員たちの握手攻めにつきあった後に、登壇。ここでも、異例なことが起きました。まず、上下両院議長に演説原稿を渡す。これはお決まりのアクションなのですが、通常はサッサと演説に入るところを、いきなり雑談に振ったのでした。
バイデン大統領は「来週の日曜は家にこもって絶対仕事しないのでよろしく」とブツブツ言ったのです。12日の日曜は、他でもないスーパーボウルが開催されます。ですから、このブツブツの意味は、自分はイーグルスのファンなので、それが物凄く大事ということですが、そこにある意味合いは「俺は庶民の代表なんだ。インテリでもエリートでもないんだ」という宣言でした。この人は、この種のテクニックで大衆政治家として半世紀以上生き延びて来たわけで、その面目躍如というところです。
徹底した「超党派」のメッセージ
その後も演説には行かず、まず新しく就任したマッカーシー下院議長の就任を祝って議長から笑顔を引き出し、同時に民主党の新世代リーダーであるハキーム・ジェフリーズ院内総務を紹介、更に共和党のマコネル院内総務も「長年の友人」だとしてエールを送ったのでした。
そこからの演説でも、こうした「超党派」を訴えるキーワードを各所に散りばめていました。「諸君、さあ仕事を始めようぜ」というフレーズを議場全体に呼びかけるとか、自分は就任以来「超党派での法案に300本署名した」などと述べるとか、徹底して「超党派」というキーワードにこだわっていたのでした。
極めつけは、特に下院共和党から脅しを受けている「債務上限」問題での応酬です。ここでは、バイデン大統領はかなり「汚い手」を使いました。まず、「共和党からは、5年毎に債務上限を人質に取って、年金と高齢者医療保険を危うくしようという案が出ている」と強く非難。これには議場は騒然となりました。
Qアノン系と言われ、共和党でも最右派のマジョリー・テイラー・グリーン下院議員が「ヤジ将軍」をやらかしたのはこの局面でした。多くのメディアでは、このヤジについては「演説妨害」だとして批判されていますが、実はこれはバイデンの罠だったのです。つまり、「共和党は高齢者福祉をカットしようとしている」という強引な批判をしておいて、例えばグリーン議員などに「ウソつき」と叫ばせる、それは一種の作戦でした。
バイデンは「ならば共和党は(債務上限での論争をするにしても)年金と高齢者医療には手はつけないんだな」と攻め込んで、「イエス」を引き出した格好に持ち込んだのです。つまり、債務上限でバトルはやるが、一定の合意のもとにやる、正式なコミットメントではないにしても、そんな「仮の合意」を引き出したのでした。
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