コラム

バイデン機密文書問題をめぐる民主党の不気味な沈黙

2023年01月18日(水)14時30分

一方で、民主党内はバイデン氏の態度表明を固唾を呑んで見守っており、こちらにも不気味な沈黙があります。何しろ、30代以下の民主党支持者の90%以上が「2024年にはバイデン以外の候補を期待する」といった世論調査結果が数多くあり、「バイデン下ろし」の声はキッカケがあれば怒涛のように押し寄せる可能性はあるからです。

では、バイデン氏には「立候補断念」という選択があるのかというと、これが実は難しいのです。1つには2期目には出ないと発言した瞬間に「政権がレイムダック化」してしまうという問題があります。ですが、それよりも恐ろしいのは「後継にハリス副大統領を指名しても予備選で敗退」という「Wレイムダック」の可能性があることです。

しかも、この「機密文書スキャンダル」に加えて「次男ハンター氏への下院共和党の執拗な追及」が続くでしょう。立候補断念を公表した途端に、求心力は低下する一方、だが身に覚えのないスキャンダルは叩かれ続け、盟友のハリス氏を次期大統領候補にするにも苦労するとなれば、何も楽にならないわけです。

そうなると、机上の空論かもしれませんが、バイデンが即時に辞任してハリス氏を大統領に昇格させるという「ウルトラC」の方が合理的とも考えられます。ハリス氏が昇格したら、初の女性大統領としてブームになる可能性はあるからです。沈黙を守っている中で、大統領とその周辺は様々な可能性を探っているに違いありません。実は2月7日の火曜日には、年に一度の「一般教書演説」が待っています。このまま演説に臨んでも叩かれるだけですから、半月以内に大きな動きがある可能性も考えられます。

ハリス昇格という「ウルトラC」

本稿の時点では、仮にハリス氏が大統領に昇格しても、選挙には1回しか出られません。ですが、今月21日以降は「任期の後半での昇格」となり、可能性としては2回の選挙に出ることができます。そんな憲法の規定も微妙に意識されていると考えられます。

ちなみに、岸田首相の訪米はこのような緊迫した中で実現しました。会談の前後、首相周辺は相当にピリピリした中でのサポートだったと思われます。そんな中では、官房副長官が緊張のあまりポケットに手を突っ込んでいたなどというのは、実に自然という印象を受けます。ポーカーフェイスでいた方が怖い状況とも言えます。

また、首相は「万が一」に備えてハリス副大統領とも会談を行っています。会談だけなら普通のことですが、わざわざ副大統領府のオフィスに足を運んで記帳もしているのです。そのことを、2日後にハリス氏がツイートして公表するというあたりには、ある種の調整の痕跡がうかがえます。G7の結束にこだわって国際間の緊張を拡大する首相の外交姿勢には単調さも感じますが、動揺するホワイトハウスへの対処については、官邸はちゃんと仕事をしているように見えます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story