コラム

アメリカの警察官は、どうしてワクチンを嫌がるのか?

2021年10月23日(土)15時00分

新型コロナによる警察官の死亡率は極めて高い Andrew Kelly-REUTERS

<リベラルな地域でも警察官の意識は非常に保守的で、根強い政治不信もある>

アメリカでは、2021年の2月以来、新型コロナウイルスの予防ワクチンの接種に「猛烈な」勢いで取り組んできました。ですが、7月以降はどんどん接種のスピードがダウンする中で、デルタ株の感染拡大を許すことで「第4波」が猛威を振るうことにもなりました。

最新の接種率ですが、モデルナ/ファイザーの2回接種、もしくはJ&Jの1回接種を受けて接種を「完了した」人の全人口に占める割合は、57.62%に過ぎず、日本の67.21%と比べると、10ポイントも低いという恐ろしい状況になっています。

中でも、最悪はワイオミング州の42.44%で、下から順にアラバマ、ミシシッピ、ノースダコタ、ルイジアナ、アーカンソー、アイダホ、ウェストバージニア、ジョージア、テネシー、オクラホマ、ミズーリ、サウスカロライナ、インディアナ、モンタナと、15州が50%を下回っています。同時にこれらの州では、「第4波」における深刻な医療崩壊と多くの死者を出すことになりました。

その一方で、現在アメリカで社会問題となっているのは、ワクチン接種を拒否する警察官の問題です。

シカゴ市警では3分の1が拒否

特にシカゴ市警では、10月15日を期限として接種証明の提出を義務付けたところ、全体の約3分の1に当たる4500人が提出を拒否して問題になっています。接種義務化を宣言しながら、ここまで粘り強く現場の説得に当たっていたライトフット市長も、これ以上の妥協は不可能だとしてこれらの警官には無給の自宅待機を命じました。それでも、多くの警官は接種を受けないというのです。

シカゴ市に関しては、当面の治安確保が問題になります。市長としては当面は状況を静観するものの、万が一要員不足により市内の安全が確保できない場合は、州兵の動員も辞さないとしています。

同様の状況は、全国的に問題となっており、少なくともニューヨーク市警、ロサンゼルス市警、シアトル市警では相当数の警官が接種を拒否することにより、現場から外される模様です。現在ニューヨークと、サンフランシスコでは万引き犯の激増という治安悪化に苦しんでいますが、警察力の弱体化がこれに拍車をかけている格好です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story