コラム

グローバルな時代だからこそ、古文・漢文は大事

2021年03月25日(木)15時00分

ビジネスシーンで関係性を作るために…… kazumi seki

<ビジネスシーンで信頼関係を築くうえで古典の教養は大きな武器になる>

古文漢文を必修科目から外すべきという議論があります。グローバル化する現代においては、人生で使うことはないというのが理由のようですが、私は違うと思います。

最初にお断りしておきますが、古文漢文を現在のような大学入試のペーパーテストで扱うのは廃止すべきです。日常言語としては死文化したテキストを、暗記した語彙と文法を使って「暗号解読」するという中進国型のスキルは、現代社会では不要だからです。

その一方で、古文、つまり古代から近世にかけて、そして明治初期にかけてのテキストに親しむこと、そして漢文、つまり中国の古典を日本式の訓読みを通じて理解すること、そうした学習そのものは「グローバル化の時代だからこそ」必要であると思うのです。

まず、古文ですが、これはグローバルな世界で人脈を拡大する上で、日本人にとっては必須アイテムです。そのことは、立場を置き換えてみれば簡単に理解できることです。例えば、日本の企業を代表して英国企業と大事な交渉をする場合に、相手との間で親近感を作る手段として、シェイクスピアとかオースティンを話題にするということは比較的成功率が高いと思います。

日本式IKIGAIがブームに

建造物や音楽などのアート系の雑学を使っての「自分は親英家だというアピール」もいいですが、何といっても文学というのは、「ブツが不要」だし、「翻訳で親しんだ知識でも通用する」「シェイクスピアならまず高学歴な英国企業代表なら知らないことはない」という感覚は納得できると思います。歴史、政治、スポーツなどの話題と違って、安全でもあります。

これを裏返すと、英国企業の代表が日本に乗り込んできて日本文学の話題、特に古典文学の知識を「関係性の突破口」に使ってくる、特に「自分は親日家」というアピールで攻めてくることは容易に想像できます。その場合のシェイクスピアに当たるのが紫式部の『源氏物語』だったりします。

そして、現在は英語圏全般で「日本式の生きがい(IKIGAI)論」というのがブームになっており、その延長で鴨長明の『方丈記』や小林一茶、良寛などの人生観も、ポピュラーになっています。ビジネスのシーンで、彼等はどうしてそういう話題を選ぶのかというと、もちろん個人的な信頼関係を作って長期的な人脈にしたいからです。

ところが、そこで日本人の側が「自分は良く知らない」とか「日本人でも理系だとまず知らないので、ご存知のあなたは偉い」などと持ち上げても、相手は全く喜びません。失望と落胆を覚えるだけです。そうなれば、折角のビジネスチャンスが逃げて行くかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story