コラム

グローバルな時代だからこそ、古文・漢文は大事

2021年03月25日(木)15時00分

中国の経済人の場合は、教養雑談で仲良くなる風習はやや薄い(日本ほどではないにしても)ですが、同じ東アジアの文化圏に属しながら、中国とは異なる日本の伝統文化、特に哲学や文学への関心を持っている人は意外に多いように思います。

パンデミックの中で、食文化やアニメが中心だった日本文化に対する海外からの「片想い」が、実は人生観や文学の領域に広がっているのです。理系だろうが、金融志望だろうが、今こそ古文を学ぶべき時代というのはそういうことです。

漢文の場合は、少し事情が異なります。明治初期までの日本では、漢文というのが知識人の読み書きや、官公庁の記録において標準語として大きな位置を占めていました。そのことは、決して当時の日本人が、中国の文明圏に組み込まれていたことを意味しません。

オワコンではなく必須に

日本という国は、中国の王朝に清新な勢いを感じると接近して文化の輸入先として利用する一方で、王朝が衰退期に入ると関係を絶つなど、時代状況に応じた距離感を保ってきました。また、文革期などのように、中国が自国の文化を破壊するような動きをしていた時には、文学や哲学の自由な研究を本国に代わって次世代につなぐこともしていたのです。

つまり、ある種の周縁文明として、中国との距離感をコントロールしてきた歴史の中に、日本という国家のアイデンティティーの一部がある、そんな言い方もできます。そして、このような態度、つまり中国との距離感に敏感になるという態度は、中国が良くも悪くも東アジアにおける影響力を拡大してゆく中で、21世紀の中期には極めて大切なものとなるでしょう。

その際に漢文を通じて中国文明の本質に触れておくことは、大切だと思います。それ以前の問題として、中国の古典を知ることは、貿易や外交の相手を知ることにもなるし、また個人同士の人間関係を強めることにもなります。中国を競争相手として見る人にとっても、相手を知ることはますます大切な時代になるでしょう。

グローバル化の時代だから、古文漢文の知識はオワコンというのは、実は反対であり、むしろ必須となってきたと言えるのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税

ワールド

ルビオ氏「日米関係は非常に強固」、石破首相発言への

ワールド

エア・インディア墜落、燃料制御スイッチが「オフ」に

ワールド

アングル:シリア医療体制、制裁解除後も荒廃 150
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 6
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story