コラム

アメリカの経験から学ぶ、ワクチン接種促進に必要な配慮

2021年03月04日(木)15時30分

アメリカではワクチン接種当初は混乱も生じていたが Cheney Orr-REUTERS

<開始以来、混乱が続いていたアメリカのワクチン接種は、3月に入って状況に改善の兆しが見られている>

アメリカでは、新型コロナウイルスの予防ワクチンの接種が開始された約3カ月が経ちますが、この間、供給不足や降雪などによる流通の混乱が続いていました。ですが、3月に入って気候が暖かくなると同時に、事態にやや改善の兆しが出てきました。第3のワクチン、つまりジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製の1回接種タイプのワクチンが承認されたことも追い風になる模様です。

J&J製ワクチンに関しては、ライバル企業のメルク製薬が共同生産体制を組むという報道もあり安定供給への期待が高まっています。バイデン大統領が宣言した「5月下旬までに成人全員の接種完了」が実現するかどうかはまだ分かりませんが、ようやく大量接種の体制へと進みつつあるのは事実です。

そんな中で、問題になっているのがワクチン接種の際の労働条件です。まず、アメリカの場合は職場での集団接種は今のところは、ほとんどありません。各州によって詳細は違いますが、基本的に申し込みは個人ベースです。年齢や職業、既往症などを登録しておいて、「あなたは予約が可能になりました」というメールを待つのです。

多くの場合は州内の大規模接種会場に案内されることが多く、しかも先着順ですから迷っていると枠はどんどん埋まっていきます。予約は数週間後の接種日を指定するものが多く、平日の昼間ということになりがちです。接種会場までは片道数時間という場合もあります。

接種日は「病欠」?

そうした場合に「接種の日の欠勤」をどう扱うかが問題です。各州によって労働法制が違うアメリカですが、多くの州では接種に当たっては「有給の病気休暇」を使用することが奨励されています。

問題は、副反応が強めに出る人の場合で、特に2回接種型の2回目や、かつてコロナに罹患して抗体のある人など、接種後に1日から2日は安静にする必要が出てくる場合があります。そうなると、やはり病気休暇を充当することになるわけですが、これには多くの人が抵抗感を持っています。

つまり、ワクチン接種というのは、公共の利害、つまり社会としての集団免疫の獲得や、職場における安全衛生の確保に貢献することなのに、個人の権利である病気休暇を充当するのは納得できないという感覚です。そこで、労働条件の良い職場では、病気休暇に加えてプラスアルファとして、有給の「コロナ特別休暇」を設けて接種を促進しているケースもあります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story