コラム

新型コロナの感染対策で日本の後を追うアメリカ

2020年03月10日(火)15時45分

「グランド・プリンセス」の乗客約2400人は、結局カリフォルニアで下船して米軍施設で隔離されることになった Kate Munsch-REUTERS

<日本から一足遅れて感染拡大に直面したアメリカの対応は、これまでの日本の対応と重なる部分が多いが、リモートワークに関してはかなり先行している>

アメリカでは、新型コロナウィルスの感染が拡大し、全50州のうち感染が確認された州は首都ワシントンを含めて35に達しました。現時点での感染者は602人、死亡者は22人というのが当面の数字で、東海岸と太平洋沿岸では州レベルの非常事態宣言も出ています。

アメリカの動きですが、基本的に日本の動向を後追いしている印象です。例えば、サンフランシスコへ接岸しようとしたクルーズ船「グランド・プリンセス」が、感染が確認されたために接岸が拒否されたニュースは、横浜のクルーズ船の事例に酷似しています。

結局この「グランド・プリンセス」は、洋上で14日間隔離するのではなく、サンフランシスコ湾内のオークランド港に接岸し、約2400人の乗客については、3日間をかけて健康状態の確認をしながら下船させる事になりました。

また、下船後の乗客は複数の米軍基地内に分散されて、14日間隔離されることになっています。こうした対応は、日本の横浜港における「ダイヤモンド・プリンセス」の事例に学んでのことだと言えます。なお、米政府は全国民に向けて、「基礎疾患のある人を中心に、クルーズ船による旅行を中止するように」という異例の告知を行っています。

リモートワーク、リモート授業への移行では優れている

その他、社会におけるウイルスに対する基本的な受け止め方はアメリカも日本も同じです。多くの無発症者が感染を拡大する可能性がある一方で、全員の検査を行えばデメリットもあることから、検査数を爆発的に増やすことはしないで、段階を踏んでの水際作戦と、社会の段階的な閉鎖・隔離を行う方法が取られています。ここでの前提となる考え方や方法論についても、アメリカは日本の後を追っており、対応はほとんど一緒です。

また、小中高、あるいは大学の対面講義キャンセルの動きもかなり早め早めに対応されています。こちらに関しても、子どもや学生の健康を守る目的と、軽症や無症状となりやすい若者が感染を拡大するのを防止するもう1つの目的について、二重性のある目的の提示の仕方をしていることでもアメリカは日本の後を追っています。

一方でアメリカの対応が優れていると思われるのは、社会全体がジョブ型雇用となっているため、在宅勤務への移行が可能なグループがはるかに大きいし、ノウハウもできている点が挙げられます。同じく、大学だけでなく小中高などでもPCが100%配布されている地域が多く、教員のテック利用スキルが高いので「リモート授業」への移行が可能ということも特筆できます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対

ビジネス

デフレ判断の指標全てプラスに、金融政策は日銀に委ね

ワールド

米、途上国の石炭からのエネルギー移行支援枠組みから

ビジネス

トランプ氏、NATO加盟国「防衛しない」 国防費不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story