コラム

イランとの応酬はまるでギャンブル、トランプ外交の極限の危うさ

2020年01月09日(木)16時45分

この先のことは分かりません。今回の会見でも、トランプ大統領は追加の制裁を言明し、とにかくイランの核政策を厳しく批判しています。イランにしても、オバマとEUなどとの間で成立させた核合意が事実上崩壊した今、核開発を簡単に止めることはできません。ですから、アメリカとイランの緊張関係はまだまだ続くと考えられます。

そうではあるのですが、とりあえず12月末から発生していた米イランの間での暴力の応酬が、短期的に沈静化することは確度の高い状況となってきました。また、仮にそうだとすると、1月3日のソレイマニ司令官殺害作戦というのは、法的な正当性や後世の歴史的評価は別として、現時点では「成功した」という評価が可能になります。

何よりも、このイランとの「暫定的な手打ち(?)」により、当面アメリカは米兵を危険に晒すことを回避できた格好です。2017年1月の就任以来、とかくトランプ大統領とペンタゴンの間には、不協和音が続いていましたが、おそらくこの一件をもってトランプ政権は相当な程度に軍を掌握したと考えられます。

それでは、今回の一件はトランプ流の「常識破り」な「交渉術」が成功したもので、今後ますます大統領は自信を深め、世論もそれを支持して、トランプ流の軍事外交が展開される、そんな評価をしていいのかというと、それは違うと思います。

今回のソレイマニ司令官殺害作戦は、とにかく法的根拠が希薄なだけでなく、軍事外交の方法論として、あまりにも危険なギャンブルです。同様の手法が、常に成功するとは限りません。仮に今回の「成功」に味を占めて、トランプ流の軍事外交が世界を対象に展開されるようですと、どこかで大きな破綻が生じる可能性は否定できないでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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