コラム

トランプ弾劾、歴史的訴追でも「盛り下がって」いる理由

2019年12月19日(木)16時10分

民主党は弾劾裁判でトランプを追及するつもりだが(写真は民主党のペロシ下院議長) Jonathan Ernst-REUTERS

<上院弾劾裁判でのトランプ擁護を国民に見られたくない共和党は、弾劾「瞬殺」に向けて予想以上に結束を強めている>

トランプ大統領の「ウクライナ疑惑」に端を発した弾劾の動きは、下院司法委員会で可決されたのに続いて、12月18日には下院本会議で、第1の権力乱用容疑については「230対197(棄権1)」、第2の議会妨害容疑では「229対198(棄権1)」でいずれも可決されました。これによって憲法の規定により、弾劾案は上院が構成する弾劾裁判所に送られることになりました。

弾劾裁判所というのは、連邦最高裁の長官(現在はロバーツ長官)が裁判長となり、上院議員100人全員がいわば陪審員となって弾劾の審査を行う制度です。ここでは、定員の3分の2、つまり67の賛成が必要となっています。

アメリカ憲政史上3例目となる歴史的な弾劾裁判ですが、現時点ではまったく盛り上がっていません。というのも、上院では共和党が過半数を占めており、多少の造反が出るにしても、弾劾が可決される見込みはないからです。

もちろん民主党の側では、そんなことは百も承知で弾劾に突っ走ってきています。ですがここ数日、弾劾案の下院通過の前後の雰囲気は意外にも、かなりの「盛り下がり」となっています。訴追側にまわって攻めて、下院では弾劾案を通した民主党側としては、こんなことは想定していなかったはずです。

どうして「盛り下がっている」のかというと、そこには共和党側の強固な結束があります。ウクライナの大統領に対して「自分の政敵であるバイデンの息子の捜査をしないと軍事援助を止める」と脅迫したということは、まったくムチャクチャな事件で、共和党側にも造反して弾劾に同調する議員が出そうなものですが、造反はほとんど出ていません。反対に選挙を恐れた民主党議員が3人造反に回っています。

共和党の結束というのは、弾劾というドラマが単なる党利党略になっているなかで、共和党議員団としては、トランプのコア支持者を中心にして次の選挙を戦うことが既定路線になっているためです。

そんな結束をさらに強化したのが、大統領側の「恫喝作戦」です。これは、昨年10月に起きた最高裁判事候補のカバノー判事に対する性暴力疑惑への対応がベースになっているようです。カバノーは一切事実を認めなかったばかりか、自分への告発が事実に反すると激しく反論、その激しさが共和党議員団を結束させたのです。

同じように、今回トランプ大統領は民主党のペロシ下院議長に対して「(選挙で当選した自分を弾劾するのは)民主主義の破壊だ」などと極めて強気の書簡を送付、こうした恫喝作戦が共和党議員団を結束させているとも言えます。大統領自身は、下院本会議で弾劾案の最終審議が行われている時間、ミシガン州の支持者集会で気勢を上げていました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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