コラム

トランプ弾劾、歴史的訴追でも「盛り下がって」いる理由

2019年12月19日(木)16時10分

そんな中で、焦点は上院側の扱いに移っています。上院共和党議員団のボスであるマコネル上院院内総務は、場合によっては「弾劾案を冒頭決議で却下」するという可能性を示唆しています。

上院議員というのは、各州から1回の選挙で1人ずつ選出されます。ですから、よほどの保守州でない限り、民主党の候補とは都市圏のリベラルや中道票を取り合う選挙戦になります。ということは、下院でやってきたように、共和党議員が上院での審議で大統領を擁護するのは危険な場合があるのです。つまり「ウクライナへの軍事援助は結局止まらなかったのだから問題ない」というような「党派的な弁論」をする様子がテレビで流れてしまうと、無党派層が「カチンと来る」わけで、そんな「審議風景」は見せたくないという判断があるのかもしれません。

また、上院の証人喚問でも、下院同様に「ウクライナへの脅しは確かにあった」という種類の証言が出るたびにテレビが盛り上がる、それも共和党としては避けたいところです。それ以前に、「弾劾案を瞬殺」すれば民主党にダメージを与えることができるという計算もあると考えられます。ということで、民主党として当初描いていた「上院では負けるかもしれないが、弾劾を進めることが政治的に有利」という計算は外れつつあるようです。そうなれば、民主党としては2020年11月の大統領選でトランプを打ち破ることに専念するしかありません。

今回、当初言われていた日程より早く、12月18日に下院本会議での弾劾議決を行なったのも、19日の朝のテレビニュースなどで「弾劾、下院通過」を大きく報道してもらって勢いをつけ、その19日の晩に予定されている「民主党大統領予備選テレビ討論」を盛り上げようという作戦なのかもしれません。

もちろん、民主党の幹部は口が裂けてもそんなことは言わないでしょう。ですが、この審議日程繰り上げは、上院で「瞬殺」された場合に備えて、大統領選への臨戦態勢を優先しようとしている兆候とも考えられます。民主党として「弾劾問題の出口」を考え始めていると見ることもできるでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story