コラム

大阪府庁のPC強制シャットダウンは働き方改革ではない

2019年11月28日(木)16時00分

ムダを省くその手段がこれではお粗末すぎる golfcphoto/iStock.

<夕方6時半までに仕事を終わせるのは、働き方改革の成果であって手段ではない>

大阪府の吉村知事は27日、残業を減らすために、来年度から大阪府庁では午後6時半にPCを強制的にシャットダウンできるシステムを導入すると発表しました。何とも情けない話で、私は驚きました。

「日本維新の会」は、大阪府と大阪市の二重行政コストを合併によるリストラ効果で圧縮するなど「地方発の小さな政府論」を掲げています。効率を上げて、ムダを省くのはそのイデオロギーの中核であるはずですが、その手段がこれではお粗末に過ぎます。

さらに言えば、上司は部下に対して「働きやすさ」を提供する、そのようなリーダーシップが求められているのに、反対に「忙しい部下の業務を邪魔する」ような規則を作るというのは現場無視もいいところ......そんな印象もあります。

とにかく、これは働き方改革ではありません。夕方6時半にPCが落とせるというのは、改革が効果を挙げた場合の成果であり、それを手段としていきなり宣言するというのは、本末転倒です。

では、何を改革したら良いのかというと、とりあえず吉村知事の「6半にPCダウン」を手段ではなく結果として実現するために、PCでの作業効率を向上させる必要があります。

そのために、2つ提言したいと思います。

1つは文書・書類の削減です。例えば、会議での使用書類があります。会議とは情報を集めて判断する場ですが、その情報を口頭で説明するのであれば文書は不要です。特に重要なことであればあるほど、決定に必要なことであればあるほど、口頭で説明し、それを参加者は熱心に聞いて判断の材料にするのが当然です。

膨大なスライドを用意し、ご丁寧にその縮小版を配り、その内容と同じことを喋るというのは1つでいいことを3つ重ねるムダをやっているわけです。生身の人間を集めた会議であれば、口頭による確認と意見交換、意思決定に集中するべきです。その際にスピードアップになるのなら、スライドでビジュアル情報を入れるのもいいでしょう。ですが、そのスライドに凝る必要はないですし、網羅的な情報を入れてプレゼンするのもムダ、書類配布も備忘録的な議題一覧と生データ以外は止めるべきです。

そもそも網羅的な資料を用意しないと会議の内容についていけない人は、会議に呼ぶ必要はありません。それでは迅速な意思決定に参加できないからです。そういった人物の権限を現場に委譲し、そもそも会議や意思決定に関わる人数を減らせば、業務効率は大幅に向上します。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story