コラム

経団連が雇用保険を使った「氷河期世代」救済に反対する理由

2019年09月19日(木)18時20分

経団連としては「40歳前後まで非正規労働を続けてきた人材には期待していない」あるいは「自分たちは雇うつもりがない」と言っているように聞こえます。そのぐらい冷たい表現です。

さらに言えば、経団連というのは日本のGDPを必死に改善して、日本国内の経済水準の衰退を止めるとか、日本国内の雇用を確保することよりも、日本の大企業に「本社採用された終身雇用の正社員による共同体」の利害代表であってそれ以外ではない、そう宣言しているという見方もできるでしょう。

そう考えれば(2)も全くだと言えます。雇用保険の最大の問題は、雇用の不安定な非正規労働者に対するセーフティネットとしては機能していないことです。現在の雇用保険の積立金が余っているという事実が、まさに制度の歪みを証明しています。

その点には全く言及せずに、正社員が失業する時代に備えて積立金を蓄えておこうというのは、やはり「大企業の正社員による共同体」の利害しか考えていないということを示しているからです。

それにしても、日本の生産性がここまで落ち込んでいるなかでは、大企業としては抜本的な改革を必要としているはずです。その意味で、非正規労働者として長年シビアな現場を経験してきた「氷河期世代」の中には、新卒以来正社員としてヌクヌクと勤務してきた人材には気付かないような業務改革のヒントを持っている人材も必ずいるはずです。

正社員経験のない人材は斜に構えているとか、権利意識ばかりで経営感覚がないなどとボロクソをいうのは、むしろ凡庸な経営者であり、「ロスジェネ」の視点に期待するという企業がそろそろ出てきてもいいのではないでしょうか。その意味で、経団連の提言は二重に残念とも言えます。

20250318issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年3月18日号(3月11日発売)は「日本人が知らない 世界の考古学ニュース33」特集。3Dマッピング、レーダー探査……新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック反発、CPI鈍化受

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅高、インフレ鈍化で安心感 関

ビジネス

米成長率、第1四半期は「少なくとも」2─2.5%の

ワールド

プーチン氏、クルスク州視察 ウクライナ軍「必要な限
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「腸の不調」の原因とは?
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    株価下落、政権幹部不和......いきなり吹き始めたト…
  • 5
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 6
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 7
    トランプ第2期政権は支離滅裂で同盟国に無礼で中国の…
  • 8
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎…
  • 9
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 10
    「トランプの資産も安全ではない」トランプが所有す…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 6
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 7
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 8
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 9
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 10
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story