コラム

上限2カ月? 取得単位ゼロ? 日本型留学は周回遅れ

2019年01月29日(火)19時00分

2カ月間ではアメリカのクウォーター制の大学でも単位取得は難しい shironosov/iStock.

<文科省や国立大学による単位取得を目的としない留学制度は、学生にいったい何をやって来いと言うのか?>

国立の千葉大学は2020年度以降の学部・大学院の全入学者を対象に、原則として在学中に1回の海外留学を必修化すると発表したそうです。「全員留学」を義務付けるのは、全国の大学でも極めて先進的な取り組みだというのですが、発表内容を見て私は驚きました。

学部生の場合、留学期間は、最長2カ月程度というのです。これではセメスター制の大学では半期にも満たないし、クォーター制でもギリギリです。要するに単位を取って来なくてもいいということです。

同じような話はもっと大規模なプロジェクトでも見られます。文部科学省が鳴り物入りで進めている「トビタテ!留学JAPAN」というもので、これは財界から広範な寄付を募ってやっており、総額で百億程度の民間寄付金が使われています。ここでも「単位の取得は必要ない」という条件になっているのです。

大学生の本分は勉学であり、その証明は単位取得であり、その評価は取得単位における成績です。その単位は、基本的には世界で相互乗り入れが可能であり、また一生有効というのが国際ルールです。ですから、世界における交換留学制度というのは、学生が行き来するだけでなく、留学先で取ってきた単位を出身大学に戻った際に単位認定する「単位交換制度」とセットになっているのです。

ですが、単位を取ってこなくていい留学というのでは、一体何をやって来いというのでしょうか?

例えば先行している全国版の「トビタテ」の場合は、さすがに語学研修というのは対象外としているものの、実社会との接点があればいいということで、フィールドワークやボランティア活動などが推奨されています。

例えば、私の住むニュージャージー州にも「トビタテ」の学生さんが(それも相当に入試の難しい大学からでしたが)近郊農家に住み込みで研修に来ていました。その研修は、それ以上でも以下でもなく、経験としては楽しかったかもしれませんし、もしかしたら研究者や技術者となる上での貴重な気付きを得たかもしれません。

ですが、同じ労力とコストを使うのであれば、近所のプリンストン大学とか、ラトガース大学、カレッジ・オブ・ニュージャージーなどに1学期間留学して、農業経済にしても、遺伝子工学にしてもディスカッション形式の授業なり、少人数のゼミに参加、徹底的に討論と読書とを繰り返す密度の濃い時間を過ごし、しかも、単位認定と成績のかかった試験や論文という「締め」を経験するのであれば、その成果は学生自身の中に残っていくと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story