コラム

トランプ不倫スキャンダルに潜む深刻な疑惑

2018年04月17日(火)17時40分

この問題で、4月9日にコーエン弁護士に対して、FBIが強制的な家宅捜索を行い、この問題を含む大量の書類を押収しています。押収した資料は、大統領を捜査対象としている特別検察官のチームにも渡ったとされており、またこの時点でダニエルズ氏は司法当局に対して捜査への協力を開始しています。こうした動きに対して大統領は激怒していると伝えられます。

この書類押収について今週16日に、ニューヨークの連邦地区判事が命令を出して「一体どの書類が押収されているかを明示せよ」「差し押さえをする書類に関しては、その根拠となるキーワードを明示せよ」というような指示をしています。一見すると、FBIの「行き過ぎ」を牽制しているようで、とりあえずトランプ陣営は歓迎しています。

ですが、同時にこの地区判事は「コーエン弁護士が(トランプ応援団の)TVキャスター、ショーン・ハニティ(FOXニュース)の秘密弁護人だったことを暴露」しています。このハニティは、4月9日のコーエン弁護士への強制捜査について、番組内で厳しく批判していたのですが、コーエン弁護士との秘密の「弁護関係」があったとなると話は別で、ジャーナリストとしての倫理が問われる事態となってしまいました。

さらに16日、裁判所の前でストーミー・ダニエルズ氏本人が会見して、「コーエン弁護士は自分が法律であるかのように振る舞ってきました。今こそ、真実の究明が必要です」と述べ、徹底抗戦の構えを見せていました。少し前にCBSテレビのインタビューに応じたダニエルズ氏は、この「不倫口止め」問題に関して、身体的な危害を加えるというような脅迫を受けたと述べており、それも含めてトランプ氏とその周辺に対して激しく反発しているのです。

ここまでお話しした範囲では、いかにもトランプ氏らしい「下品なスキャンダル」で、それ以上でもそれ以下でもないイメージです。反対派は「大統領にあるまじき下劣さ」だと怒っている一方で、支持派は「庶民的な大統領への攻撃だ」というような気分で、FBIなどの動きには冷ややか――そんな分裂の中では、どんなに進展があってもインパクトは限られるのかもしれません。

ですが、この「ストーミー・ダニエルズ問題」で見えてきた大統領の人格的な問題について、例えば今週回顧録を出版するコミー前FBI長官(トランプ大統領によって解雇)は「女性を皿の上の肉片のように思っている下劣な人物」(ABCテレビでのインタビューから)だという真正面からの批判を開始していますし、特別検察官も捜査を続けています。

さらに言えば、ロシア疑惑のうちの重要な点として、大統領の女性問題に関する秘密をロシア当局に握られているという疑いも捜査対象となっています。女性問題とロシア疑惑が「つながって」一つの大きなストーリーになるようであれば、さらに深刻なスキャンダルに発展する可能性も考えておかなければなりません。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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