コラム

裁量労働制のどこがウソなのか?

2018年02月20日(火)18時30分

例えば上司がやってきて「報告、連絡、相談」をせよと言ってくるわけです。その場合でも、この上司が自分よりスキルも情報もネットワークも持っていて、「Aの機能の部分には、Bという部品より、最近量産化されたCという部品の方が良さそう」だなどという「相談することによってより生産性の上がる」アドバイスをしてくれるのなら良いのです。

ですが、そうしたケースは稀であり、日本型の組織の中では上司の方が「俺が分かってないと責任取れないからトコトン教えてくれよ」と、自分のスキルや知識のないのを棚に上げて人の時間を奪ったり、さらには「役員報告しなくちゃいけなんだけど、俺じゃ質問に答えられないから、本社まで一緒に来てくれる?」などと丸一日分の時間を奪ったりするわけです。

そうした「相手のある調整」というのは、もちろん世界中の専門職にも付いて回るわけで、ゼロにするわけにはいかないと思います。ですが、少なくとも「知識とスキルが一番高い」人間が、権限はあるが知識もスキルもない人間に説明して回らなくてはならないとか、そのために「自分の裁量できる時間が半分以下」などということはないはずです。

報道機関の記者に裁量労働を適用する場合もそうで、各記者が一国一城の主で「自分のテーマを自由に時間をかけて取材して良い」のであれば裁量労働になります。ですが、「開票日だから、〇〇党の選対に詰めて都連委員長の会見始まったらレポートしてよ」的なタスクを振られ、つまり上司と取材対象の事情に振り回されての「裁量のない」働き方になるのであれば、それは時間管理をするべきでしょう。

つまり、事実上、本人に「裁量権がない」にもかかわらず「裁量労働」という制度を適用するのであれば、それは「ウソの裁量労働」だということです。その結果として、ストレスは蓄積し、労働時間の長時間化と共に労働者の健康を著しく害することにもなりかねません。

この点の「ウソ」に気づかないまま、データの信憑性について「ウソだ」とか「いや違う」などと喧嘩をしているというのは喜劇を通り越して悲劇と言うしかありません。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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